嚥下障害とは嚥下機能の低下や疾患などの影響で、食事中にむせたり飲み込みにくさを感じることをいいます。医療や介護の現場で目にした方もいるのではないでしょうか。
むせが徐々に強くなったり飲み込む力が弱くなったりすると、誤嚥性肺炎や低栄養につながる場合もあるために注意が必要です。
本記事では、嚥下障害がある方の食事のポイントや栄養管理、誤嚥を防ぐための工夫を解説します。正しい知識を身につけ、今後のケアの一助となれば幸いです。

監修医師:
高山 哲朗(かなまち慈優クリニック)
理事長 高山 哲朗
平成14年慶應義塾大学卒業
慶應義塾大学病院、北里研究所病院、埼玉社会保険病院等を経て、
平成29年 かなまち慈優クリニック院長
【所属協会・資格】
医学博士
日本内科学会総合内科専門医
日本消化器病学会専門医
日本消化器内視鏡学会専門医
日本医師会認定産業医
東海大学医学部客員准教授
予測医学研究所所長
嚥下障害があるときの食事のポイント

嚥下障害とはどのような状態ですか?
嚥下障害とは、食べ物や飲み物を噛む、飲み込む動作がうまく行えなくなる状態です。加齢による筋力低下のほか、脳梗塞や認知症、パーキンソン病などさまざまな原因で起こります。飲み込む力が弱くなると、食べ物が気管に入りやすくなる誤嚥や食物摂取障害での栄養低下などの問題につながります。特に意識したいことは、高齢の方の肺炎は加齢による嚥下機能の低下による誤嚥によって引き起こされるものが少なくないことです。食事中にむせる、飲み込みに時間がかかる、食後に声がガラガラするなどの症状がみられる場合は早めの対策が必要です。
食事姿勢や環境で注意することはありますか?
嚥下障害がある方や高齢の方は、食事の際の姿勢や環境を整えることが大切です。椅子に座る場合は、足底が床にしっかりつくよう調整し背もたれにもたれ過ぎず、少し前かがみの姿勢をとります。少し前かがみになることで顎が軽く引かれ、食べ物が気管に入りにくくなります。ベッド上で食事をする場合も、上半身をしっかり起こし、顎を軽く引く姿勢を意識しましょう。クッションなどを活用し姿勢を整えることもおすすめです。また、テレビを見ながらの食事や周囲の騒音は注意力が散漫になり、誤嚥のリスクを高める場合があります。落ち着いて食事に集中できる環境づくりも必要です。
食事介助で工夫できることはありますか?
食事介助を行う場合、あらゆる面への配慮が不可欠です。最初に介助する側の基本姿勢として、本人の斜め前もしくは横に座り、なるべく本人より低い位置に座ります。ベッドで食事の際はベッドの高さを調整しましょう。そうすることで食べる際に自然に顎を少し前かがみにできるからです。立ったままなどの高い位置での介助は本人が見上げる姿勢になり、誤嚥を引き起こすため避けましょう。次に本人の姿勢を整え、しっかりと飲み込めるように一口量や食べるペースに注意します。一度に多くお口へ入れると、むせや誤嚥につながるため少量ずつゆっくり介助し、しっかり飲み込んだことを確認してから次の一口をすすめます。食事中はテレビを消すなど、食事へ集中しやすい環境を整えましょう。さらに、話しかける際も口腔内に食べ物が残っていないか確認しながら会話を行うことで、誤嚥予防につながります。ただし、食事時間が長くなると徐々に疲労してくるため、嚥下機能も低下してきます。本人に合わせて無理のない時間内で食事をすすめることも大切です。
嚥下障害に伴うリハビリにはどのようなものがありますか?
嚥下障害に対するリハビリには、お口や舌、喉の筋肉を動かす訓練や飲み込みの動作を改善する練習があります。例えば嚥下体操や口腔体操、発声練習、唾液を繰り返し飲み込む間接訓練が行われます。また、食事の際の姿勢調整や食事形態の見直しも重要なリハビリの一つです。状態によっては、実際に食べ物を使って安全性のある飲み込み方を練習する直接訓練が行われます。医療機関や施設だけでなく、自宅でも簡単に取り組める方法として「ぱ・た・か・ら」と発声するぱたから体操や、唾液の分泌を促すために歯茎をやさしく刺激するマッサージなどもあります。さらに、食事の際に顎を軽く引いた姿勢を意識するだけでも重要な誤嚥予防法です。無理のない範囲で本人の状態に合ったリハビリを継続しながら、医師や言語聴覚士(ST)、歯科医師など専門職と連携していきましょう。
嚥下障害に配慮した食事と栄養管理

嚥下障害に配慮した食事形態の種類について教えてください。
嚥下障害がある方の食事では、一人ひとりに合わせて飲み込みやすさに配慮した嚥下調整食が用いられます。代表的なものとして食材をやわらかく調理したものや細かく刻んだもの、ミキサー状にしたもの、とろみをつけたものなどがあります。飲み込む力や噛む力に合わせた食事形態の調整は治療やリハビリでも重要となり、自己判断で変更や調整をせず、医師や言語聴覚士など専門職に相談しながら選びましょう。
食べやすい食材や食事形態にはどのようなものがありますか?
実際に嚥下障害がある方が食べやすいものとして具体的なものを挙げると例えば豆腐や茶碗蒸し、プリン、やわらかく煮た魚や野菜などやわらかくまとまりがある食材です。食事形態には、やわらかく調理したものからミキサー状やペースト状にしたものまでの段階があり、飲み込む力や噛む力に応じて調整します。特に、なめらかで均一な状態の食事はお口のなかでばらつきにくく誤嚥予防にも役立ちます。一方で、パサつくものや水分と固形物が混ざったもの、お口のなかでバラバラになりやすいものは控えるよう注意が必要です。
嚥下障害がある場合に控えたい食材はありますか?
控えたい食材を具体的に挙げるとパンやゆで卵のように水分が少なくパサつくもの、海苔や葉物野菜のようにお口のなかに張り付きやすいもの、そぼろや焼き魚のようにパラパラになりやすいものは注意が必要です。また、水やお茶などのさらさらした液体も気管に入りやすい場合があります。食材によってむせや誤嚥を起こしやすいので食べにくさがある際は、調理方法やとろみ付けの工夫が大切です。
とろみ剤はどのように使うとよいですか?
とろみ剤は、水やお茶などの液体を飲み込みやすくする食品です。液体にとろみをつけることで、お口から喉へ液体がゆっくり移動しやすくなり誤嚥を予防します。とろみ剤は粉末タイプや液体タイプ、スティックタイプと種類がありスーパーやドラッグストアなど身近な場所で購入が可能です。使用する際は、製品ごとの使用量を確認しダマにならないように十分にかき混ぜることがポイントです。とろみは時間の経過によって変化する場合もあるため、混ぜた直後だけでなく、少し時間を置いて状態を確認しましょう。また、液体の温度や飲み物の種類によって、とろみの付き方が異なることもあります。とろみが強すぎると飲みにくさや飲水量の低下につながる場合もあり、脱水のリスクへ注意が必要です。一方で、とろみが弱すぎると誤嚥の恐れもあります。難しく感じるかもしれませんが、医師や言語聴覚士(ST)など専門職へ相談しながら、本人に合った濃度に調整していきましょう。

