胃がんや大腸がんは、適切な検査や検診によって発症リスクの低減や早期発見が期待できるとされています。しかし、「いつ検査を受ければよいのか分からない」「症状がないから大丈夫」と考え、後回しにしている人も少なくありません。そこで今回は、消化器内科医の白井保之氏、中学生でのピロリ検診を推進する垣内俊彦氏、大腸CT検査の普及に取り組む鶴丸大介氏、予防医療の経済効果を研究する藤井政至氏の講演と四者のパネルディスカッションをもとに、近年の予防戦略を解説します。
先生プロフィール:
白井 保之氏(医師 小倉記念病院 消化器内科主任部長)
2002年広島大学医学部卒。山口大学病院や周東総合病院で臨床経験を積む。大学院では内視鏡トレーニングにおけるシミュレーターの有用性に関する研究で学位を取得。2013年より小倉記念病院消化器内科に在籍し、2018年に部長、2020年より主任部長。高度な内視鏡診断・治療を中心に診療に従事。2025年9月よりモンゴル国立大学客員教授に就任予定。日本消化器病学会専門医・指導医、日本消化器内視鏡学会専門医・指導医。
先生プロフィール:
垣内 俊彦氏(医師 佐賀大学医学部附属病院 小児科診療准教授)
1999年自治医科大学医学部医学科卒業。唐津市神集島診療所、佐賀医科大学医学部(現・佐賀大学医学部)小児科、国立成育医療センター(現・国立成育医療研究センター)消化器科、福岡市立こども病院総合診療科などで研鑽を積む。2014年より佐賀大学医学部附属病院小児科助教として勤務し、2019年同大学大学院医学研究科博士課程を修了。2022年より現職。日本小児科学会小児科専門医。佐賀県の中学生ピロリ検診事業を約10年にわたり主導し、学校保健安全法への組み込みによる全国的な制度化を目指した活動にも取り組んでいる。
先生プロフィール:
鶴丸 大介氏(医師 九州大学大学院医学研究院臨床放射線科学分野 准教授)
日本医学放射線学会認定放射線科専門医。消化管を専門とする放射線科医として大腸CTコロノグラフィ(CTC)の臨床応用と普及に取り組んでいる。放射線科と消化器内科の両面から大腸がん検診の普及に従事し、大腸CTに関するeラーニングシステムの構築にも携わっている。
先生プロフィール:
藤井 政至氏(医師 株式会社R0 代表取締役)
佐賀大学医学部卒業後、鳥取大学医学部附属病院をはじめ山陰地域の医療機関で研鑽を積む。消化器内科医として内視鏡検査・治療に従事。2019年には医療機器シミュレーター開発企業の最高医療責任者を務め、大学では助教として教育・研究に携わる。2020年に株式会社R0を設立し代表取締役に就任。内視鏡シミュレーターの開発・世界展開を推進するほか、PCR検査体制の構築や大規模ワクチン接種事業の運営など地域医療にも貢献。2022年には倉吉シティ内視鏡クリニックを開設。現在は鳥取大学医学部特任教員として医療機器開発や人材育成に携わるとともに、情報工学分野の研究にも取り組んでいる。日本消化器病学会 消化器病専門医。
“中学生でピロリ検診”!? 「感染症」の胃がん一次予防の新常識
垣内俊彦氏:
ピロリ菌は、WHO(世界保健機関)の専門機関であるIARC(国際がん研究機関)が「最も確実な発がん性区分(グループ1)」に分類する物質です。日本では胃がんの大部分がピロリ菌に起因するとされ、「胃がんは感染症」という認識が現代医学の常識になっています。ピロリ菌感染者の多くは幼少期に感染し、長期間にわたる慢性胃炎を経て、胃粘膜の萎縮へ進行し、最終的に一定割合の人が胃がんを発症することが明らかにされています。
こうした兆候が見られるのは大人だけではありません。中学生においても胃粘膜の萎縮は確認されており、胃炎が進行する前の除菌が効果的とされています。
そこで佐賀県では2016年より、県内の中学3年生を対象にピロリ検診を開始しました。学校検尿の残尿を活用して一次検査を行い、陽性者には便キットを郵送する仕組みです。両検査で陽性となった場合は、県内の医療機関で除菌を受けることができ、全プロセスが公費(無償)です。この10年間で約7万4000人が参加しています。同意率は当初と比較して向上しており、感染率も徐々に低下しています。これまでに重篤な副作用の報告は確認されていません。
しかし現在、全国自治体での同検診の実施率は約6%にとどまっています。そのため私は学校保健安全法への組み込みによる全国法制化を目指し、国への陳情を続けています。将来的に中学生ピロリ検診が全国へ普及すれば、成人向け胃がん検診のコストを大幅に削減できるとの試算もあります。また、中学生での除菌は、将来の母子感染予防にもつながることが期待されます。
「下剤」も「痛み」も最小限? 新しい大腸がん検査「CTコロノグラフィ」
鶴丸大介氏:
大腸がんは年間約15万人が罹患し、その約3分の1が死亡する疾患です。女性のがん死亡原因の上位を占め、罹患者数は増加傾向が続いています。しかし、大腸がん検診(便潜血検査)で陽性となっても、精密検査である大腸内視鏡検査を受けずに放置している人が少なくありません。この理由として、検査に伴う苦痛、約1.5Lにおよぶ下剤服用の負担、ネガティブな口コミの影響があります。未受診者の中には進行がんが含まれている可能性が指摘されており、深刻な課題です。
この課題を解消する検査として注目されているのが、CTを用いて大腸の内部を立体的に観察する「大腸CTコロノグラフィ(CTC)」です。大腸CTは下剤がごく少量で済み、撮影時間も仰向けとうつ伏せでそれぞれ約15秒と短く、鎮静も不要です。6mm以上のポリープに対する高い検出性能が報告されており、臨床的にも有用とされています。
なお2021年の制度改正により、診療放射線技師が担える業務範囲が拡大し(医師の指示の下において、下部消化管検査での造影剤・空気の吸引など)、本検査は運用しやすくなりました。
また、過去の調査によると、愛知県の医療機関では、大腸CT陽性者の約9割が内視鏡検査に移行しているというデータがあります。つまり大腸CTは内視鏡の代替ではなく、受診への入口として機能することが実証されているのです。将来的には完全下剤なしでの大腸CTの実用化も見込まれており、さらなる受診障壁の解消も期待されています。

