車椅子への移乗介助は、介護現場や在宅介護で行う機会の多い介助のひとつですが、利用者の状態に合わない方法で介助を行うと転倒や転落、介助者の腰痛につながる可能性があります。
安全性を重視して移乗介助を行うためには、利用者の残存機能を活かしながら身体への負担に配慮した介助方法を選択することが重要です。
また、事前に環境調整や福祉用具の活用を検討することも、移乗介助時の負担軽減につながる重要なポイントです。
この記事では車椅子移乗介助の基本手順や意識したいポイント、役立つ福祉用具、注意点について解説します。

監修医師:
高山 哲朗(かなまち慈優クリニック)
理事長 高山 哲朗
平成14年慶應義塾大学卒業
慶應義塾大学病院、北里研究所病院、埼玉社会保険病院等を経て、
平成29年 かなまち慈優クリニック院長
【所属協会・資格】
医学博士
日本内科学会総合内科専門医
日本消化器病学会専門医
日本消化器内視鏡学会専門医
日本医師会認定産業医
東海大学医学部客員准教授
予測医学研究所所長
車椅子移乗介助の基本手順

車椅子移乗が必要になる状況を教えてください。
車椅子への移乗介助は、歩行や立ち上がりが不安定な方に対して行われます。例えば加齢による筋力低下や脳卒中による片麻痺、骨折などで移動能力が低下すると、ベッドやトイレ、車などへの移動時に介助が必要になる場合があります。また、病気の影響によって一時的に歩行が不安定になる場合もあります。歩行自体は可能でも、長距離移動や方向転換に不安がある方は身体状況に応じて車椅子を活用するケースがあります。さらに長時間の立位保持が難しい方は、わずかな方向転換でも転倒リスクが高まるため、注意が必要です。そのため、利用者の身体状況を確認し、必要な介助量を見極めることが大切です。
ベッドから車椅子への移乗介助方法を教えてください。
まず、車椅子をベッドに対して20〜30度程度の角度で配置しブレーキをかけ、フットレストを上げて足元に障害物がないか確認しましょう。次に、利用者にベッド端へ移動してもらい、足底を床につけた状態で座位を整えます。介助者は利用者の身体に近づき、前傾姿勢を促しながら立ち上がりを介助し、小さく方向転換しながら車椅子へ移動します。急な動きはふらつきにつながる可能性があるため、利用者のペースに合わせて介助することが望ましいでしょう。また移乗介助では利用者への声かけも重要で、次の動作を事前に伝えることで、利用者との動作共有にも役立ちます。急に身体を動かすと、バランスを崩す可能性もあるため注意が必要です。
車椅子から車への移乗介助方法を教えてください。
車へ移乗する際は、できるだけ車椅子を座席に近づけて配置し、段差や傾斜がある場合は足元の安定性にも配慮します。介助時は、利用者がつかまれる場所を確認し、身体を支えながらゆっくり方向転換を行います。特に車の座席は高さが異なる場合もあるため、無理に引き上げるのではなく、重心移動を活用しながら介助することが大切です。また、自動車ヘの移乗時はドアを十分に開け、介助スペースを確保しておくことも重要です。車椅子のブレーキやフットレストを確認したうえで介助を行い、頭部や足元が車体へ接触しないよう注意しながら移乗を進めましょう。
移乗前に確認すべき準備や環境調整はありますか?
移乗介助前には、車椅子のブレーキやフットレストの位置を確認します。また床が滑りやすくなっていないか、周囲に障害物がないかも重要な確認ポイントです。利用者の履物が滑りやすい場合は、転倒につながる可能性もあります。必要に応じて介助スペースを確保し、利用者へ動作の流れを事前に説明しておくと、スムーズな移乗につながりやすいでしょう。さらにベッドと車椅子の高さに差があると、利用者と介助者双方へ身体的負担がかかる可能性があるため、可能な範囲で高さを近づけておくことが重要です。
車椅子移乗介助で意識すべきポイントと福祉用具

車椅子移乗介助での足の使い方のポイントを教えてください。
移乗介助では、腰だけで持ち上げようとすると介助者の負担が大きくなる可能性があります。そのため、膝を軽く曲げ、足幅を広げた状態で重心移動を使うことが重要です。また、利用者にできる範囲で踏ん張ってもらうことで、介助負担の軽減につながる場合があります。無理に抱え上げるのではなく、身体全体を使って介助することが望ましいでしょう。介助者と利用者の距離が離れた状態で介助すると、腰部へ負担が集中しやすくなるとされているため、できるだけ身体を近づけながら介助を行うことで身体的負担の軽減が期待できます。
片麻痺がある場合の移乗介助で意識すべきポイントを教えてください。
片麻痺がある場合は、利用者の健側を活用しながら移乗介助を行い、麻痺側はバランスを崩しやすいため急な方向転換や引っ張る動作には注意が必要です。また立ち上がり時は足の位置や身体の傾きによって転倒リスクが高まる場合があり、利用者の動きを確認しながら、必要に応じて身体を支えることが大切とされています。また、麻痺側の足は位置が不安定になりやすいため、立ち上がり前に足底がしっかり床へ接地しているか確認することも重要です。利用者の動きを急がせず、バランスを確認しながら介助を行いましょう。
全介助が必要な場合はどのように移乗しますか?
全介助が必要な場合は、無理に一人で抱え上げないことが重要です。利用者と介助者の双方に大きな負担がかかる可能性があるため、必要に応じて2人以上で介助したり、移乗用リフトやスライディングボードなどの福祉用具を活用したりする方法もあります。また、利用者自身が行える動作を活かしながら介助することで、利用者も動作へ参加しやすくなると考えられます。手すりを持つ、足で踏ん張るなど、可能な範囲で利用者に動作へ参加してもらうことや適切な介助方法を選択することが重要です。
移乗介助に役立つ福祉用具はありますか?
移乗介助では利用者の身体状況や介助環境に応じて福祉用具が活用される場合があり、代表的なものとして、スライディングボードや移乗用リフトがあります。スライディングボードは、ベッドと車椅子間の移動を補助する福祉用具で、身体を持ち上げる動作が少なくなるため介助者の身体的負担を抑えやすくなる場合があります。移乗用リフトは、利用者を抱え上げずに移乗を補助する福祉用具で、介助者の腰部負担軽減に役立つ場合があります。さらに、移乗時の方向転換を補助するターンテーブルなどが使用される場合もあります。福祉用具を使用する際には、利用者の身体状況や介助環境に合わせて選択し、無理のない介助方法を検討することが大切です。

