食事量を大きく減らしていないのに体重が落ちると、ダイエットの成果と受け止めたくなる方もいます。しかし、食べても痩せる体重減少の背景に、糖尿病による高血糖が隠れている場合があります。糖尿病は、血液中のブドウ糖を筋肉や臓器の細胞へ取り込む働きが弱くなり、身体が糖をエネルギーとして使いにくくなります。その結果、尿から糖や水分が失われたり、脂肪や筋肉が分解されたりして、体重が減る場合があります。もちろん、体重減少だけで糖尿病と決めることはできません。甲状腺の病気、がん、慢性感染症、消化吸収の病気、気分の落ち込みなどでも、意図しない体重減少は起こります。大切なのは、体重の変化を放置せず、喉の渇き、尿の回数、だるさ、吐き気などの症状を併せて確認し、必要な検査につなげることです。

監修医師:
高宮 新之介(信州大学医学部附属病院 呼吸器外科)
昭和大学(現・昭和医科大学)卒業。大学病院で初期研修を終えた後、外科専攻医として勤務。静岡赤十字病院で消化器・一般外科手術を経験し、日本外科学会専門医を取得。昭和大学大学院 生理学講座 生体機能調節学部門を専攻し、脳MRIとQOL研究に従事する中、医学博士を取得。昭和大学横浜市北部病院(現・昭和医科大学横浜市北部病院)呼吸器センターを経て、現在は信州大学医学部附属病院 呼吸器外科に勤務。肺がんを中心とした呼吸器外科診療、低侵襲手術、肺がん術後QOL、術前心理状態と術後疼痛に関する研究に取り組む。日本外科学会専門医、日本呼吸器外科学会専門医。医学博士。がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会修了。
糖尿病で体重が減少するメカニズム

糖尿病ではなぜ体重が減少するのですか?
糖尿病で体重が減る主な理由は、インスリンが十分に働かず、糖をエネルギーとして使いにくくなるためです。食事から吸収された糖は血液中に入り、インスリンの助けを借りて筋肉や臓器の細胞に取り込まれます。細胞に入った糖は、身体を動かすエネルギー源になります。糖尿病は、インスリンの量が不足したり、インスリンが効きにくくなったりします。血液中には糖が増えているのに、細胞のなかでは糖を十分に使えない状態になります。身体はエネルギー不足を補うため、脂肪や筋肉を分解してエネルギーを作ろうとします。脂肪や筋肉の分解が進むと、食事をしていても体重が減る場合があります。
食べているのに痩せていくのは糖尿病のサインですか?
食べているのに痩せていく状態は、糖尿病のサインの一つです。ただし、糖尿病だけに限った症状ではありません。糖尿病で血糖値がかなり高くなると、喉が渇く、水をよく飲む、尿の回数が増える、体重が減る、疲れやすいなどの症状が現れる場合があります。忙しさで食事が不規則になる、飲酒量が増えて食事量が減る、胃腸症状で吸収が落ちる、気分の落ち込みで食事内容が偏る、悪性腫瘍など、背景はさまざまです。自己判断で食事量を増やすより、体重の推移と症状を記録して受診する方が原因に近づきやすくなります。
1型糖尿病と2型糖尿病で体重減少の特徴は違うのか教えてください
1型糖尿病と2型糖尿病は、体重減少の出方に違いがあります。1型糖尿病は、膵臓のβ細胞が壊され、インスリンがほとんど出なくなる場合があります。インスリンが急に大きく不足すると、糖を細胞に取り込めず、身体は脂肪や筋肉を分解してエネルギーを作ります。そのため、喉の渇きや多尿とともに、短い期間で体重が落ちる場合があります。1型糖尿病は若い方にみられやすい病気ですが、成人になってから見つかる方もいます。2型糖尿病は、インスリンが出にくくなることと、インスリンが効きにくくなることが関わります。発症初期には症状が目立たず、健診で初めて高血糖を指摘される方もいます。
体型は肥満の方が目立ちますが、やせ型の方にも2型糖尿病は起こります。血糖値が高い状態が進むと、2型糖尿病でも体重減少が現れる場合があります。2型糖尿病は症状がゆっくり進む場合があり、体重減少を見逃すことがあります。健診の結果を保管し、過去の血糖値やHbA1cと比べると、変化に気付きやすくなります。
参照:
『糖尿病とは』(糖尿病情報センター)
『1型糖尿病』(糖尿病情報センター)
『Symptoms & Causes of Diabetes』(NIDDK)
注意すべき体重減少とほかの症状

どのくらい体重が減ったら糖尿病を疑うべきですか?
目安として、理由がわからないまま6〜12ヶ月以内に体重の5%以上、または4.5Kg以上減った場合は、医療機関へ相談しましょう。例えば体重50Kgの方なら2.5Kg以上、60Kgの方なら3Kg以上、80Kgの方なら4Kg以上の減少が一つの目安です。ただし、体重減少の量が目安より少なくても、喉の渇き、多尿、強いだるさ、吐き気、腹痛がある場合は早めに受診した方がよいでしょう。
糖尿病を疑う際に重要なのは、体重の減り方だけではありません。いつから何Kg減ったか、食事量や運動量、尿の回数や飲水量が変わったかを併せてみる必要があります。健診で血糖値やHbA1cの異常を指摘された方、家族に糖尿病の方がいる方、急にお口が渇くようになった方は、体重減少を軽く見ないでください。
体重減少と一緒に現れる典型的な症状にはどのようなものがありますか?
糖尿病で血糖値が高くなると、喉の渇き、水分摂取の増加、尿の回数の増加、体重減少、疲れやすさが現れる場合があります。血糖値が高いと、身体は尿から余分な糖を出そうとします。その際に水分も一緒に失われるため、尿が増え、喉が渇きやすくなります。水を飲んでもお口の渇きが続く場合や、夜間に何度もトイレに行くようになった場合もあります。疲れやすさも見逃しやすい症状です。血液中に糖が多くても、細胞が糖を十分に使えなければ、身体はエネルギー不足を感じます。眠っても疲れが抜けない、仕事や家事の途中で以前より休みたくなる、階段で息切れしやすいなどの変化があれば、体重の変化と併せて確認しましょう。血糖値が高い状態が続くと、目のかすみ、傷の治りにくさ、感染を繰り返すなどの症状が出る場合もあります。症状の一つひとつは糖尿病だけに特有ではありませんが、複数が重なるときは検査を受ける理由になります。
糖尿病ケトアシドーシスとはどのような状態か教えてください
糖尿病ケトアシドーシスは、インスリン不足によって糖をエネルギーとして使えず、脂肪が急速に分解されることで起こる重い急性合併症です。脂肪が分解されるとケトン体が増え、血液が酸性に傾きます。高血糖と脱水も重なり、治療が遅れると生命に関わる場合があります。単なる疲労や胃腸炎のようにみえる場合もあります。
糖尿病ケトアシドーシスは、急な喉の渇き、多尿、全身のだるさ、吐き気、腹痛、息苦しさ、意識がぼんやりするなどの症状が現れます。1型糖尿病で起こりやすい状態ですが、2型糖尿病でも感染症、脱水、治療の中断、清涼飲料水の多飲などが重なると起こる場合があります。
参照:
『糖尿病は早く見つけましょう』(糖尿病情報センター)
『糖尿病の急性合併症のはなし』(糖尿病情報センター)
『Weight loss – unintentional』(MedlinePlus Medical Encyclopedia)
『Diabetic Ketoacidosis』(CDC)

