正論を押し付けても人は動かない

(※画像はイメージです)
ーー生活リズムの大切さは理解しても、パートナーに協力してもらうのが難しいという悩みも多いと思います。特にお子さんが小さくて育児を分担していると、「こうしてほしい」というやり方をうまく共有できずに困っているという声はよく聞きます。
成田 そうですね。人って「正しいことを言っているのだから、相手はわかってくれる」と思いがちですが、実際にはなかなかうまくいきません。「これが正しいからやってほしい」と一方的に伝える形だと、どうしても押し付けになってしまう。そうすると、相手は納得して動くというよりは、「言われたから仕方なくやる」か、あるいは反発する方向に行きやすいんですね。
ーーでは、どう関わるのがよいのでしょうか。
成田 大切なのは「正論」ではなく「対話」です。相手がどんな状況にいるのか、どういう生活リズムなのか、何を大事にしているのか。そういった文脈をきちんと理解したうえで、こちらの考えも伝えて、お互いに無理のない落としどころをすり合わせていくことが必要です。
たとえば、ご家族の帰宅時間ひとつをとっても、「この時間帯は子どもが眠りに入りかけているから、できれば少しずらしてもらえると助かる」といったように、具体的に伝えるだけでも受け取り方は変わります。
ーーコミュニケーションの仕方そのものが重要なんですね。
成田 もうひとつ、とても大事なことがあります。
ーーそれは何でしょうか。
成田 親が安心していることです。親自身がいつも焦っていたり、不安を抱えていたり、余裕がない状態でいると、それはそのまま子どもに伝わります。どんなに理屈として正しいことを言っていても、子どもにとって家庭が「安心できる場所」でなければ、脳は休まらないんです。
逆に、親がリラックスして笑顔でいられると、それだけで子どもは安心できます。家庭は本来、外で使ったエネルギーを回復する場所です。そこが緊張やプレッシャーを感じる場所になってしまうと、回復するどころか、さらに疲れてしまう。それが一番大きな問題だと思います。
生活の中で脳を育てるヒント

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ーー親自身にとっても、家庭が安心できる場所であることが大切ですね。ただ、外では仕事に追われて家では家事に忙殺されてしまう、という声も少なくありません。
成田 そうですね。私も様々な相談を受けていて特に感じるのは、「家庭の中の役割の偏り」です。多くのご家庭で、お母さんがひとりで家事と子育てを回しているケースが多い。でも、本来家庭というのは生活共同体ですから、そこにいる全員が担うものだと考えられませんか。
ーー子どもも含めて、ということですね。
成田 子どもも立派な家族の構成員なので、それぞれにできる役割があります。たとえば、小学生であれば洗濯機を回すこともできますし、食事の準備を手伝うこともできます。もっと小さい子でも、お皿を運ぶとか、一緒に片づけるとか、できることはたくさんあります。
ーー子どもに任せるより自分でやった方が早い、と思ってしまいそうです。
成田 そう思ってしまうのも自然ですが、実はその「生活」を一緒に回すこと自体が、脳の成長にとってとても重要なんです。家事というのは、段取りを考えたり、同時に複数のことを進めたり、状況に応じて判断したりと、前頭葉をフルに使う活動です。いわば、生活そのものがトレーニングなんですね。
ーー生活の中に「脳を育てる要素」があるということですね。
成田 そうです。しかも、それを家族で一緒にやることで、「できたね」とか「助かったよ」といったポジティブな関係性も生まれます。その積み重ねが、安心感にもつながっていきます。
ーーここまでのお話をうかがっていると、「子どもを変えなきゃ」という前提自体が違うように感じます。
成田 その通りです。宿題やゲームは生活そのものではありません。あくまで「余裕があったらやるもの」です。まず生活がきちんと回っていること。その上で時間が余ったら勉強なり遊びなりをする、という順番です。この順番が逆になっているケースがとても多くて、それが結果的に子どもを疲れさせる一因になっています。
「今、動けていない」という状態は、決してネガティブなものではなく、「休む必要がある」というサインです。まずはしっかり休ませること。生活の軸を整えること。そこから、子どもはちゃんと育っていきます。それがすべてのスタートになると思います。
子ども脳疲労

(取材・文 マイナビ子育て編集部)
成田奈緒子小児科医・医学博士。公認心理師。子育て科学アクシス代表・文教大学教育学部教授。 1987年神戸大学卒業後、米国セントルイスワシントン大学医学部や筑波大学基礎医学系で分子生物学・発生学・解剖学・脳科学の研究を行う。2005年より現職。臨床医、研究者としての活動も続けながら、医療、心理、教育、福祉を融合した新しい子育て理論を展開している。著書に『「発達障害」と間違われる子どもたち』(青春出版社)、『高学歴親という病』(講談社)、『山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る』(共著、講談社)、『子どもにいいこと大全』(主婦の友社)など多数。近著に『その「一言」が子どもの脳をダメにする』(共著、SBクリエイティブ)がある。→記事一覧へ