「最近、食事中にむせることが増えた」「飲み込みにくさを感じるようになった」そんな些細な変化は、お口や喉の筋肉が衰え始めているサインかもしれません。
食べる力(嚥下機能)の低下は、単に食事がしづらくなるだけでなく、命に関わる誤嚥性肺炎のリスクにも直結します。そこで取り入れたいのが、隙間時間で手軽に取り組める嚥下(えんげ)体操です。
本記事では嚥下体操について以下の点を中心に紹介します。
嚥下体操とは
嚥下体操のやり方
嚥下体操のポイントと注意点
嚥下体操について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までお読みください。

監修医師:
高山 哲朗(かなまち慈優クリニック)
理事長 高山 哲朗
平成14年慶應義塾大学卒業
慶應義塾大学病院、北里研究所病院、埼玉社会保険病院等を経て、
平成29年 かなまち慈優クリニック院長
【所属協会・資格】
医学博士
日本内科学会総合内科専門医
日本消化器病学会専門医
日本消化器内視鏡学会専門医
日本医師会認定産業医
東海大学医学部客員准教授
予測医学研究所所長
嚥下体操の基礎知識

嚥下体操とは何ですか?
嚥下体操とは、食事の前に行う飲み込みの準備運動です。嚥下とは、食べ物を飲み込みやすい状態にし、お口から喉、食道を通って胃へ送る働きを指します。一方、うまく飲み込めず食べ物などが気管に入ってしまうことを誤嚥といいます。嚥下体操は、食べ物を使わずに行う基礎訓練の一つです。食べる前に口や喉まわりの筋肉を動かしたり、刺激を加えたりすることで、口腔周辺の運動や感覚の働きを促します。
嚥下体操には、以下のような目的があります。
・飲み込みをスムーズにする
・誤嚥のリスクを減らす
・安全に食事を楽しみやすくする
走る前に準備運動をするように、食事の前にも嚥下体操を取り入れることで、より安心して食べるための準備につながります。
嚥下体操を行う目的を教えてください
嚥下体操の目的は、食べ物を飲み込みやすくするために、お口や喉まわりの働きを高め、維持することです。唇や頬、舌、声帯、首、肩などを動かすことで、お口周辺の筋力や動きが促され、嚥下しやすい状態へ整えます。
なかでも期待されることは、次のとおりです。
・唇や頬、舌の筋力の向上につなげる
・舌をなめらかに動かしやすくする
・唾液が出やすい状態を促す
・口腔周囲の機能向上や維持に役立てる
食事前の数分間、毎日続けることで、食べる準備がしやすくなるとされています。また、お口や顔まわりを動かすため、表情がいきいきしやすくなることも特徴です。
嚥下体操はどのような方におすすめですか?
嚥下体操は、食べる・飲み込む・話す動きに不安を感じる方におすすめです。例えば、次のような状態がある場合は、嚥下機能を整えるための訓練を取り入れる目安になります。
・食事をすると疲れやすい
・飲み込みにくさを感じる
・話しにくさがある
・食事中にむせやすくなった
また、高齢になると加齢により嚥下機能が自然に低下しやすくなります。そのため、症状が出てからだけでなく、機能が落ちる前から予防として行うことも大切です。さらに、“ごっくん”と飲み込む際に喉頭が十分に上がりにくい方や、食道の開きが十分でない方は、喉頭が上がる感覚を学ぶ練習が役立つ場合があります。
嚥下体操を始める前に必要な道具はありますか?
嚥下体操を始める際、必ずしも特別な道具が必要とは限りません。訓練の内容によっては専門機器を使う場合もありますが、お口や舌を動かす体操のように、道具なしで行えるものもあります。そのため、まずは準備のしやすさや自宅などの環境に合わせて、無理なく続けられる方法を選ぶことが大切です。
一方で、道具を使う体操もあります。例えば、ボールつぶし体操では、直径6〜12cmほどのゴムボールを顎と胸の間に挟み、頭を下げるようにして5秒押しつぶします。息を止めずに行い、10回を1セットとして、朝・昼・夕の食事前などに取り入れます。最初から道具にこだわらず、道具の有無に合わせて、できる訓練から始めましょう。
嚥下体操のやり方と続けるコツ

自宅でできる嚥下体操を教えてください
自宅で行う嚥下体操は、食事の前に数分取り入れると効果が期待できます。誤嚥は食べ始めのひと口目に起こりやすいため、顔・首・口まわりを動かし、筋肉の緊張をほぐしてから食事に入りましょう。流れの例は次のとおりです。
①口から息を吐き、鼻から吸う腹式呼吸を行う
②首を左右に回す、傾ける、上下に動かす
③肩を上げ下げし、ゆっくり回す
④舌を出し入れし、左右に動かす
⑤「パパパ」「タタタ」「カカカ」などを発音する
⑥唾液腺をマッサージして唾液を促す
⑦咳をして、喉に入ったものを出す練習をする
最後にもう一度深呼吸をし、唾液を飲み込んで喉の動きを確認します。首に障害がある方は、首や肩の運動について主治医の指導にしたがってください。
嚥下体操は1日何回行えばよいですか?
嚥下体操は、朝食前、昼食前、夕食前の1日3回程度を目安に行うとよいでしょう。食事の前に取り入れることで、飲み込みに関わるお口や喉まわりの動きを整えやすくなります。ただし、回数を増やせばよいというものではありません。3回以上行っても問題ない場合はありますが、やりすぎは身体への負担につながることがあります。なかでも、首や腹筋を使う訓練は負担が大きく、続けにくい場合もあります。嚥下体操を行う際は、以下のような点に注意しましょう。
・体調に合わせて回数を調整する
・首を痛めない範囲で行う
・難しい場合は回数やセット数を減らす
頭部挙上訓練が難しい場合は、より簡便な嚥下おでこ体操を検討しましょう。
嚥下体操はいつ行うのがよいですか?
嚥下体操は、食事の前に行うのがよいとされています。食べる前に口や舌、口腔内の筋肉を動かしておくことで、食事に使う筋肉が活性化し、飲み込みやすい状態を整えやすくなります。なかでも、パタカラ体操のような発音を使った運動は、食事前に行うことで、誤嚥やムセの予防につながります。また、お口や舌を動かすことで唾液が出やすくなり、食べ物をお口の中でまとめやすくなる点も特徴です。
介護施設などでも、食事前に嚥下訓練を取り入れ、誤嚥や窒息の予防に努めている場合があります。食事をスムーズに進める準備として、毎食前に無理のない範囲で行いましょう。
嚥下体操を習慣化するコツはありますか?
嚥下体操を続けるには、行うタイミングを決め、毎日の生活の流れに組み込むことが大切です。例えば、食事の前にお口の運動をする、歯磨き後にあいうべ体操をする、就寝前に舌回しを数回行うなど、すでにある習慣と結びつけると忘れにくくなります。
【習慣化のポイント】
・決まった時間に行う
・負担の少ない体操を選ぶ
・短時間でも継続する
最初からさまざまな運動を取り入れようとすると続けにくいため、簡単で取り組みやすい内容から始めましょう。無理なく繰り返すことで、嚥下訓練を日常に定着させやすくなります。

