前歯を失うと、見た目や日常会話への影響から、治療を急ぎたいと思う人も多いでしょう。しかし、前歯のインプラントは奥歯と比べて見た目の仕上がりまで求められる分、治療の難易度が高く、歯科医院選びも慎重に行う必要があります。本記事は、前歯のインプラントならではの注意点や治療の流れ、信頼できる歯科医院の選び方について、橋口歯科赤坂ガーデンシティ理事長の橋口隼人先生に解説してもらいました。
※26年3月取材。

監修歯科医師:
橋口 隼人(橋口歯科赤坂ガーデンシティ)
日本歯科大学生命歯学部卒業。日本歯科大学附属病院臨床研修修了後、国際医療福祉大学三田病院歯科口腔外科、国家公務員共済組合連合会 立川病院歯科口腔外科などを経て、2015年より橋口歯科(厚木・赤坂)に勤務。現在は橋口歯科赤坂ガーデンシティ理事長を務める。患者さんの笑顔と生活の質の向上を医院理念「SMILE CREATION」に掲げ、診療にあたっている。日本口腔外科学会、日本口腔インプラント学会、日本歯周病学会所属。
奥歯とどう違う? 前歯のインプラントが「難しい」といわれる理由
編集部
前歯のインプラントは、奥歯と比べてなぜ難しいといわれるのでしょうか?
橋口先生
奥歯のインプラントは「かむ力の回復」が主な目的である一方で、前歯は機能面に加えて「見た目の自然さ」も同時に求められます。前歯は笑ったときや話すときに最も目立つ部位であるため、歯の形・色・大きさはもちろん、歯ぐきの高さや形まで整える必要があります。さらに、治療の経過を患者さん自身が見て判断できる部位でもあり、仕上がりへの評価が患者さんの満足度に直結しやすい点も、前歯ならではの難しさといえます。
編集部
見た目の再現が難しい背景には、骨や歯ぐきの問題も関係しているのでしょうか?
橋口先生
はい、大きく関係しています。歯を抜いた後、アジア人は特に唇側(頬側)の骨の吸収が顕著に起こる傾向があります。インプラントは骨を土台にする治療です。骨や歯ぐきのボリュームが失われた状態では元の見た目の再現は難しく、骨や歯ぐきを増やす造成処置が必要です。ただし、造成処置は方法を誤ると傷跡が残るリスクを伴うため、高度な技術が求められます。
編集部
前歯のインプラントで、特に治療が複雑になりやすいのはどのようなケースでしょうか?
橋口先生
複数の前歯を同時に失ったケースは、特に難易度が上がります。複数歯を抜くと骨や歯ぐきのボリュームが一気に失われるため、広い範囲にわたる欠損への対応は複雑になります。そのほかに、事故や外傷で骨が失われているケース、歯周病によって周囲の骨が溶けているケース、隣の歯との位置関係やかみ合わせに問題があるケースも、慎重な対応が必要です。このような場合も、骨や歯ぐきを増やす処置を組み合わせながら治療を進めます。
仕上がりを左右する前歯のインプラントにおける診断と治療の進め方
編集部
前歯のインプラント治療を始める前に、特に重点的に確認すべき診査・診断のポイントを教えてください。
橋口先生
前歯は審美領域(見た目の美しさが求められる範囲)であるため、骨や口元だけでなく、顔全体のバランスから診断を始める点が重要です。笑ったときに歯の先端が唇のどの位置に来るか、顔に対する歯の大きさや色味はどうかといった点をすべて分析したうえで歯の位置を決め、決定した歯の位置に合わせて骨や歯ぐきの状態を確認していきます。顔・歯ぐき・骨のすべての領域がマッチしなければ、自然な仕上がりは実現できません。顔や口元の写真を撮って総合的な分析を行ってくれるかどうかは、歯科医院を選ぶうえでの重要なポイントです。
編集部
インプラントを埋め込む位置や角度は、仕上がりにどのような影響を与えますか?
橋口先生
位置がわずか1mmずれるだけで、仕上がりに大きな差が出ます。前歯の骨は薄いため、インプラントのポジションはピンポイントで決める必要があります。重要なのは「骨があるからそこに入れる」という考え方ではなく、顔や口元のバランスから歯の位置を決め、その位置に合わせてインプラントをどこに埋め込むかを逆算していく点です。反対に、骨の状態に合わせてインプラントの位置を決めてしまうと、理想的な見た目の実現は困難です。
編集部
骨や歯ぐきの量が不足している場合、どのような処置を組み合わせて治療を進めますか?
橋口先生
骨が不足している場合は、自身の骨を移植したり人工骨を使ったりする骨造成処置(骨を増やす処置)をインプラントの埋め込みと同時、または事前に行います。また、前歯の審美領域では、骨の造成に加えて歯ぐきの造成処置も多くの場合で必要です。歯ぐきが不足している場合は、上あごから組織を切り取って移植する処置が有効です。処置が増えると治療期間は長くなります。しかし、長期的に安定した見た目を実現するうえで欠かせないステップです。

