朝ドラ「風、薫る」第72回【振り返り】
第72回は、患者の最期の願いを優先したりんの判断が、看護師としての責任と医療倫理の間で厳しく問われる展開となった。山本の死をきっかけに、りんは、患者の尊厳を尊重することと命を救うことのどちらを優先すべきかという「看護の本質」に向き合うことになり、物語は主人公の大きな転機を迎えた。
【以下、ネタバレ】
院長室で、山本の主治医・今井は、自宅に戻ったことが直接的な死因ではないと説明。外出しようが病院にいようが、容体の急変はあり得る病状だったと強調した。謝るりんに、院長の多田重太郎(筒井道隆)は、病院側の落ち度を否定するため、「大腸がんの末期で、切除部再発と腹膜播種による死亡」という主治医の診断を病院の見解とし、りんには勝手な行動を慎み、通常勤務に戻るよう命じた。
院長室を出たりんに今井は「キミは医者の判断より、患者の気持ちに従った。医療に携わる者として失格だ。命を助けることを何より優先せねばならない。…だが、もし私が患者なら、命より重んじるものがあるという考えは否定しない。あるいは、キミが患者の友人なら分からなくはない」と語った。そして「だが、キミは看護婦だ」と言い残し、その場を去った。その晩、りんは自宅に戻るが、布団に入っても眠ることができなかった。
翌日、院長室では多田と副院長の渡辺行成(森田甘路)が、りんへの対応を協議していた。渡辺によると、テイから病院への抗議はないという。しかし、すぐにりんを処分すれば病院側に落ち度があったと受け取られかねないため、事態が落ち着いた頃に処分するか、自ら辞職するよう追い込むことを目論んでいた。
精神的なショックは、りんの体にも異変をもたらしていた。普段通りに働こうと病棟に立つが、男性患者の脈を取ろうとした瞬間、その手が激しく震えて止まらなくなる。反対の手で必死に押さえようとするものの、続く包帯の巻き直しでも患者の腕を握ることすらできない。異変に気づいた看病婦の永田フユ(猫背椿)がとっさに交代し、その場を取り繕う。その様子を、病室の入り口から直美が静かに見つめていた。りんは直美と目が合うがそっと視線をそらした。
中庭の木陰で、りんは力なく直美へ胸の内を打ち明けた。山本が、手術したことをテイに後悔させたくない一心で、命懸けで最後の嘘をつくために自宅へ戻ったこと、そして病院へ戻った直後、廊下で倒れた山本が最期の瞬間、自分に向かって「助けて」と言い残したことを振り返り、「山本さんの顔…声…手が…。助けるって何?」と泣きながら言葉を絞り出した。患者の願いをかなえることが正しかったのか、それとも命を少しでも延ばすべきだったのかと、苦悩するりん。直美は「少し休んだら?」と声をかけるが、りんは「大丈夫」と首を振った。
その夜も、りんは眠れぬまま娘・環(英梨)の寝顔を見つめた。すると、静まり返った夜を破るように、突然、激しく玄関の戸を叩く音が響いた。「夜分遅くにすみません! 忠蔵です! トヨさんの様子がおかしくて!」。飛び起きた直美は、りんと顔を見合わせた。
朝ドラ「風、薫る」とは?
大関和と鈴木雅という実在した2人のトレインドナース(正規に訓練された看護師)をモチーフにした朝ドラ。激動の明治時代、まったく違う境遇に生まれ、それぞれ生きづらさを感じていた2人の女性が、未開の看護の道を切り開いていく姿を描く。「あなたのことはそれほど」「病室で念仏を唱えないでください」「くるり~誰が私と恋をした?~」などの連ドラで知られる吉澤智子さんが脚本を書き、Mrs. GREEN APPLEが主題歌「風と町」を歌う。

