治療が難しい肝臓がんは、かつてC型肝炎ウイルス感染に由来するものが最多でした。しかし、治療薬の出現でC型肝炎由来が減少する一方、アルコールともウイルス感染とも無関係の脂肪肝に由来する肝臓がんが増加しています。国内では成人の4人に1人以上が脂肪肝を有するとされ、そのうち肝臓に炎症や線維化が進む代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)は、これまで承認された治療薬がありませんでした。ノボ ノルディスク ファーマはGLP-1受容体作動薬「ウゴービ(一般名:セマグルチド)」のMASH適応追加を受け、2026年6月30日に東京都内でプレスセミナーを開催。MASHとはどのような病気でなぜ治療薬がなかったのか、ウゴービはどのように働くかなどについて解説しました。概要をお知らせします。
見過ごされてきた「脂肪肝」―MASHという病気の歴史
セミナーではまず、国際医療福祉大学 消化器内科 統括教授・熱海病院病院長の中島淳先生が、MASHという病気がどのように認識されてきたのか、歴史を振り返りながら解説しました。
脂肪肝は18世紀ごろから知られていた病態で、肝臓に脂肪が蓄積する状態を指します。現在では肝臓に5%以上脂肪がたまることが脂肪肝の定義とされています。かつては、お酒を飲まない人の脂肪肝は病的な意味を持たないと考えられていました。ところが1980年、米国の病理学者が、飲酒しない修道女の間で肝硬変が多く見つかったことを報告し、栄養の取りすぎによる脂肪肝が肝炎、そして肝硬変につながるという仮説を示しました。飲酒とは関係なく起こる脂肪肝炎という病気の概念の始まりです。この病気は非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、そのうち肝炎を伴うものは非アルコール性脂肪肝炎(NASH)と呼ばれるようになりました。2023年の国際的な名称変更により、現在ではそれぞれ代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)、MASHと呼ばれています。
MASLDは肝臓の病気の中で患者数が最も多く、国内では約2500万人にのぼると推計されています。「MASH、MASLDを含むすべての肝疾患は、慢性の炎症である肝炎を経て、線維化によって肝臓が硬くなる肝硬変に進みます」と中島先生は解説しました。MASLDは自覚症状がほとんどないまま進行し、線維化のない状態から肝炎(MASH)を経て、数十年かけて肝硬変や肝臓がんに至ることが分かっています。特に中等度以上の線維化(F2)まで進むと、比較的短い期間で肝硬変に至るリスクが高まるといいます。しかし、これまで国内にMASHそのものの治療薬はなく、血糖や脂質など併存する病気の対症療法にとどまっていました。中島先生は、有効な治療手段がないまま病気が進行していく患者さんを診てきたと、医療者としての歯がゆさをにじませました。
「ウゴービ」がMASH治療に加わった意味
ノボ ノルディスク ファーマは2026年6月19日、肥満症治療薬として先に承認されていた「ウゴービ」について、肝硬変を伴わないMASH(中等度又は高度の線維化を有する場合に限る)を効能・効果とする製造販売承認事項一部変更承認を、厚生労働省より取得したと発表しました。これにより、国内でMASHに対する薬物治療の選択肢が初めて生まれたことになります。
MASLDでは肝臓が硬くなる線維化が徐々に進み、ステージF0~F3を経て末期肝疾患である肝硬変(F4)に至ります。F0~F1の状態から肝硬変に至るには20年以上かかりますが、F3まで進んでしまうと6年以内で肝硬変になることがわかっているといいます。
「肝硬変になると治療が非常に難しくなり、海外では肝臓移植が検討されます。肝臓にがんができるとさらに治療が難しいため、ハイリスクの人たちはF2、F3のうちに治療してしまう、というのが肝臓病学者の理想とする治療です」と、中島先生は今回の承認により、アンメット・メディカル・ニーズ(有効な治療法がないなど、満たされていない医療上の必要性)の高かった領域に新たな選択肢が生まれたことの意義を強調しました。

