血液検査で甲状腺刺激ホルモン(TSH)の数値が「高い」「低い」と指摘されたことはありませんか? 意味がよく分からず、そのまま放置している人もいるかもしれません。しかし、その裏に重大な疾患が隠れていることもあります。TSHが高い・低いとはどういう状態なのか、よこすか甲状腺内科クリニック院長の向笠先生に聞きました。
※2026年5月取材。
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監修医師:
向笠 浩司(よこすか甲状腺内科クリニック)
1995年に横浜市立大学医学部を卒業し、同大学院に入学。1999年に同大学院を修了する。2001年に米ハーバード大学Brigham and Women's Hospitalに留学。2002年に横浜市立大学附属病院講師、2004年に伊藤病院、2007年に同院内科医長、2017年に中島内科クリニック副院長を経て、2021年によこすか甲状腺内科クリニック院長に就任。日本甲状腺学会専門医、日本内分泌学会専門医、日本内科学会総合内科専門医。
TSHとは?
編集部
TSHとは、そもそも何の値なのでしょうか?
向笠先生
TSHは「甲状腺刺激ホルモン」のことで、脳の下垂体(かすいたい)から分泌され、甲状腺に「ホルモンを作りなさい」と指令を出す役割を担っています。甲状腺ホルモンが不足するとTSHは上がり、逆に甲状腺ホルモンが多いとTSHは下がるという関係にあります。
編集部
TSHの検査数値は、なぜ重要なのでしょうか?
向笠先生
甲状腺疾患の早期発見に役立つからです。甲状腺の働きを調べる血液検査には、TSHのほかにFT4、FT3もあります。FT4とFT3は甲状腺から分泌されるホルモンで、血液中の量を調べることで、甲状腺ホルモンが多すぎるのか足りないのかを確認できます。ただし、甲状腺に異常が起きたとき、最初に変化しやすいのはFT4やFT3ではなくTSHです。TSHは甲状腺ホルモンのわずかな変化にも敏感に反応するため、異常のサインを早く捉えやすい点が特徴です。こうした特性から、甲状腺疾患の早期発見に役立つ検査項目として重視されています。
編集部
「TSHはいち早く病気の兆候を示す」ということですね。
向笠先生
はい。FT4やFT3など甲状腺ホルモンの数値がまだ大きく崩れていなくても、下垂体は変化を察知してTSHを増減させることがあります。その結果、症状がはっきり出る前の段階や、ごく軽い機能異常のサインとしてTSHの異常が見つかることがあります。
編集部
TSHの基準値に比べ、高いか低いかで判断するということでしょうか?
向笠先生
基本的にはそうですが、TSHの基準値は幅広く、検査施設や検査に用いるキットによっても数値が変わるため、その施設の基準値と比較して考える必要があります。また、妊娠中や特定の薬を使っている場合、重い病気の最中などでは解釈に注意しなければなりません。サプリメントや薬の服用状況にも影響を受けることから、TSHの数字だけを単独で見るのではなく、その人の体調や服薬状況、妊娠の有無などを含めて総合的に判断する必要があります。
TSHが高い・低いとはどういう状態?
編集部
TSHが高いと、どういう状態を意味するのでしょうか?
向笠先生
一般的には、TSHが高いと甲状腺ホルモンが不足している状態、つまり甲状腺機能低下症が疑われます。甲状腺ホルモンが足りなくなると、脳の下垂体が「もっとホルモンを作りなさい」と甲状腺に強い指令を出すため、TSHの値が上がるのです。代表的な原因には橋本病があり、症状としては疲れやすさ、寒がり、むくみや便秘、肌の乾燥、認知機能の低下、物忘れ、気分の落ち込みなどが挙げられます。全体として、体の働きがゆっくりになるような変化が見られる点が特徴です。
編集部
反対に、TSHが低いとどう考えればよいですか?
向笠先生
TSHが低い場合は、一般的には甲状腺ホルモンが多すぎる、つまり甲状腺機能亢進(こうしん)症を考えます。甲状腺ホルモンが多いと、下垂体は「もうこれ以上作らなくてよい」と判断してTSHを下げるためです。体の働きが活発になりすぎることで、動悸(どうき)、汗が多い、体重減少、手のふるえ、イライラ、暑がりといった症状が出ることがあります。代表的な病気にバセドウ病があります。
編集部
「TSHが高いから亢進症」「低いから低下症」というわけではないのですね。
向笠先生
誤解されやすいのですが、実際は逆です。TSHが高い状態は「甲状腺をもっと働かせようとしている状態」、TSHが低い状態は「甲状腺ホルモンが多いのでブレーキをかけている状態」であることが多いのです。数字の上下だけで自己判断せず、甲状腺ホルモンの値や症状と合わせて医師に確認することが重要です。
編集部
TSHが高い・低いというだけで、すぐに病気と診断されるのでしょうか?
向笠先生
必ずしもそうではありません。TSHが少し乱れていても、FT4やFT3が正常であれば、潜在性の機能低下症・亢進症として経過観察になることがあります。また、薬の影響や妊娠、検査条件によって変動することもあります。TSHの数値は採血のタイミングによっても左右され、例えば、朝と夕方では大きく異なります。TSHの異常を指摘されたらすぐに病気と決めつけるのではなく、追加の採血など必要な検査を行い、原因を確認することが大切です。

