揺らいでいることこそが、豊かさだ
今年、大学の講義で270人の学生に問いかけました。「あなたの食は豊かですか」。返ってきた答えは、ほぼ全員が「豊か」と答えました。理由は「食べたいものを食べたい時にいつでも手に入るから」。
「食の豊かさを語る言語が、とても乏しいなって。ちっちゃいサイクルの中の固定した価値観の中で語られるっていうのが傾向として見えて」
価値観をほぐすために、湯澤さんは授業に「揺らぎ」を持ち込みます。
この考えのきっかけは、コロナでオンライン授業になった時のこと。教室では、学生がパンをむしゃむしゃ食べていたり、パンくずが落ちていたり、外の葉っぱをぼーっと眺めていたり……そういう雑然とした場の全てが授業を構成していたんだと気づきました。画一的な情報伝達だけなら教室はいらない。でも、あの揺らぎがあってこそ、学びの場は成り立っていた。そしてそれは、食の豊かさも同じだと湯澤さんはいいます。答えが1つに収斂していく画一さより、揺らいでいることの方がずっと豊かなのだと。
クックパッドのレシピには、その「揺らぎ」がよく見えるそうです。10人いれば10通りの親子丼がある。レシピ本には最適解が1つしか載りませんが、日常はもっと多様で、デコボコしています。
「揺らぐっていうことが、すごく私たち自身の生きる社会を体現しているような気がして。日常のお茶を飲む時の会話の中に、この世を説明する真実があるような気がして、それを探しては拾っては書いてるんです」
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第78回・第79回(5月22日・29日配信) 湯澤規子さん
人文地理学者・法政大学人間環境学部教授。博士(文学)/1974年大阪府生まれ、千葉育ち。「生きる」をテーマに地理学、歴史学、経済学の視点から、当たり前の日常を問い直す旅をするフィールドワーカー。主な著書に『胃袋の近代―食と人びとの日常史』(名古屋大学出版会)、同書で生協総研賞第12回研究賞、第19回人文地理学会賞(学術図書部門)を受賞。『7袋のポテトチップス―食べるを語る、胃袋の戦後史』(晶文社)『ウンコはどこから来て、どこへ行くのか』(ちくま新書)『焼き芋とドーナツ―日米シスターフッド交流秘史』(KADOKAWA)、同書で第12回河合隼雄学芸賞を受賞。近刊の共著に『地球のまかないごはん―食・農・風景をめぐる往復書簡』(農文協)『イチからつくる蚊取り線香』(農文協)などがある。
【パーソナリティ】クックパッド株式会社 小竹 貴子
料理愛好家・ 料理の楽しみ共創室 部長/創業期から参画し、初代編集長としてメディアづくりに携わる。現在は、料理家や生産者といった食のつくり手の声を届ける活動を行っている。「日経ウーマンオブザイヤー2010」受賞。プロの技術や食材の背景にある物語を、暮らしに馴染む言葉で伝えることをライフワークに、生活者の目線で食の楽しさを探求している。
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