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イラストで楽しむ名画の謎!《アルノルフィーニ夫妻の肖像》に隠された意味とは?

ヤン・ファン・エイク《アルノルフィーニ夫妻の肖像》1434年, Public domain, via Wikimedia Commons.

しかし、この絵画を見れば見るほど、どこか違和感を覚えませんか?

意味ありげなポーズを取っている人物たち。「ここに注目して」と言わんばかりに、二人の間からのぞく鏡。よく観察すると、さまざまなモチーフが部屋にあふれていることに気がつきます。

《アルノルフィーニ夫妻の肖像》と名付けられたこの作品を描いたのは、15世紀のフランドル派(※1)を代表する画家、ヤン・ファン・エイク(1390頃〜1441)。兄のフーベルトとともに、油彩画の創始者として知られている人物です(※2)。

この記事では、精緻に描かれた《アルノルフィーニ夫妻の肖像》をイラストとともに分かりやすく解説し、ポーズやモチーフが意味するものを探ります。名画の謎が解けていくと、最初に見た時と印象が変化し、作品をより深く味わえるでしょう。

(※1)フランドル派
15世紀、ネーデルラント(現在のベルギー、オランダ)の中心地だったフランドル地方で展開された、写実的表現を追求した美術の流派。この地方で発達した油彩技術は、絵の具の発色に優れており、細密な質感や空気感までリアルに表現することが可能になりました。

(※2)ファン・エイク兄弟は、フランドル地方の多くの画家たちが試みた油彩画の技法を集大成させた人物だと言われています。
(参考:高階秀爾著『カラー版 名画を見る眼Ⅰ—油彩画誕生からマネまで』岩波書店、2025年、pp.13,14)

二人のポーズと室内に隠された意味とは?—散りばめられた"婚約"のモチーフ

まず、この絵が何を表しているのか、主役である男女のポーズと、テーマを象徴するモチーフからヒントを探してみましょう。

①男女の仕草に注目!

イラスト:浜田夏実

左側の男性は、右手を胸の前に挙げていますが、これは「誓い」を表す動作で、右側の女性との婚約を示しています。

ポーズの意味を裏付けるのが、二人が手を取り合う仕草です。古代から「結婚」を表すポーズであり、男性が宣誓した後、彼の右手が女性の右手の上に重ねられることで、結婚が成立します。

《アルノルフィーニ夫妻の肖像》は、まさに今、二人が結ばれる場面が描かれていると考えられています。(※3)

(※3)近年の調査で、アルノルフィーニ夫妻が結婚したのは1447年だと明らかになったため、本作が描かれた1434年は、婚約の誓いを示しているのではないかといわれています。
(参考:高階秀爾著『カラー版 名画を見る眼Ⅰ—油彩画誕生からマネまで』岩波書店、2025年、p.16)

②結婚(婚約)を表すモチーフ

イラスト:浜田夏実

次に注目したいのが、本物と見間違えるほど精巧に描かれた天井のシャンデリアです。注意深く観察してみると、火を灯したろうそくが、1本だけ飾られています。

中世以降のヨーロッパでは、燭台に灯る1本のろうそくは『神の目』や『婚礼の誓い』を象徴するものとされていました。二人の関係が成熟した恋愛を経て結ばれ、お互いに忠誠を示すものだったそうです。

また、男女の足元にいる小さな犬も、忠実さを象徴する存在です。この犬種は、ブリュッセル原産のグリフォン犬と見なされており、フランドル地方の裕福な人々の間で、愛玩動物としてかわいがられていたといいます。ほかのフランドル派の絵画でも、結婚の場面で同様の愛玩犬が登場しています。

③背景の部屋が意味するもの

イラスト:浜田夏実

これまで、室内の細かな部分に注目してきましたが、右側の空間を大きく占めている家具の存在にお気づきでしょうか。これは、天蓋(てんがい)付きのベッドで、この部屋が二人の寝室だと知る手がかりとなっています。

実は、15世紀のネーデルラントやイタリアのフィレンツェにおいて、中流階級の家庭では、来客のための応接室として寝室が使われていました。《アルノルフィーニ夫妻の肖像》でも、二人が手を取り合う部分の真下に、椅子が備え付けられています。

プライベートな空間にも関わらず、豪華な装飾が施されているのは、客を迎え入れて神聖な儀式を行うのにふさわしい場所だと読み解けます。

鏡に映っているものの正体は?—この部屋には"もう二人"いた!

《アルノルフィーニ夫妻の肖像》の中央に描かれた凸面鏡, Public domain, via Wikimedia Commons.

《アルノルフィーニ夫妻の肖像》には、婚約の場面が描かれていると分かりましたが、見逃せないポイントがまだ残されています。そのひとつが、中央に描かれた凸面鏡です。鏡に映る像を拡大すると、なんと、男女の手前の風景まで描かれています。

さらにフォーカスしたいのが、寝室の扉の近くに、二人の人物が姿を現している点です。実は、この絵画は、部屋の戸口に立った人物の視点で描かれており、鑑賞者は来訪者たちと同じ景色を見ていることになります。

では、彼らはなぜそこにいたのでしょうか。一説には、婚約という神聖な儀式に立ち会う証人として招かれたのではないかと考えられています。

ここで、来訪者はどのような人物だったのかという疑問が浮かぶでしょう。さまざまな研究者による調査のなかで、この立会人こそが、作者のヤン・ファン・エイクだったのではないかという説があります。

そのヒントとなるのが、凸面鏡の上に書かれた画家の署名です。ラテン語で、"Johannes de eyck fuit hic./ .1434. (ヤン・ファン・エイクここにありき、1434年)と記されています。

凸面鏡の上部に書き込まれたヤン・ファン・エイクの署名, Public domain, via Wikimedia Commons.

ヨーロッパでは、中世期まで、画家が作品に名前を残すことはほとんどなかったそうですが、ルネサンス期を迎えると署名をする習慣が広まりました。

ただし、《アルノルフィーニ夫妻の肖像》の場合、単なるサインではなく、「ここにありき」と書かれている点が、研究者の間でもいまだに議論となっています。

来訪者がヤン・ファン・エイク自身だと仮定すると、彼は肖像画を描く画家でありながら、婚約の立会人でもあり、さらには自分も絵のなかに登場させています。一枚の絵に、さまざまな意図を持たせていたのではないかと想像すると、さらに奥深く感じられるエピソードです。

配信元: イロハニアート

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