乳がんと一口にいっても、その種類は一つではなく、いくつかのサブタイプ(がん細胞の性質や特徴に基づく細かい分類)に分けられます。村上さんが経験したのは、その中でも「アポクリンがん(アポクリン腺の特徴を持つ細胞から発生する、乳がんの中でも希少なタイプ)」と呼ばれるがんでした。発覚のきっかけは、2025年1月に毎年受けていた健康診断のマンモグラフィ。村上さんは、無症状・無自覚の状態で見つかった乳がんに対し、さまざまな治療法で向き合ってきました。過去にも2回のがんを経験しており、今回が3度目の発症となる村上さんに、発覚から診断、治療、現在の生活までの経緯について聞きました。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2026年1月取材。
体験者プロフィール:
村上美奈さん
1971年生まれ、茨城県つくば市在住。現在は一人暮らし。40歳ごろに子宮頸がん、2023年に甲状腺がん、2025年に乳がん(アポクリンがん)と診断される。同年3月に部分切除術を受け、抗がん剤治療と放射線治療を経て、現在は経過観察中。
毎年の健康診断からがんが発覚
編集部
何がきっかけで乳がん発覚に至ったのでしょうか?
村上さん
2025年1月の健康診断(マンモグラフィ)で要精密検査となったことがきっかけです。10年ほど前にも同じ箇所で異常が見つかり精密検査を受けたことがあり、そのときは「乳腺症が治った場所が石灰化(乳腺内にカルシウムが沈着した状態)したのではないか」という見解で経過観察となりました。以降も毎年マンモグラフィを受け続けていたところ、2025年の検査で「以前より異常がみられる箇所が大きくなっているので、精密検査をしましょう」と告げられました。
編集部
自覚症状はありましたか?
村上さん
無症状・無自覚でした。痛みも違和感もなく、自分では何の異変も感じていない状態でした。
編集部
精密検査から診断までの経緯を教えてください。
村上さん
すぐに検査予約を取り、マンモグラフィ、超音波、針生検(組織の一部を針で採取して調べる検査)を受けたところ、2月末に乳がんという結果が出ました。この時点ではどのタイプの乳がんかまでは不明で、術後の病理検査(手術で摘出した組織を顕微鏡で詳しく調べる検査)でアポクリンがんであることが分かりました。
編集部
診断時に、医師からはどのような説明があったのでしょうか?
村上さん
2月27日の段階で「このサイズなら部分切除(がん周辺の組織のみを切り取り、乳房を温存する手術方法)で大丈夫です」と説明されました。腫瘍のサイズは13×12×10mmと小さかったため、術前の抗がん剤治療は行わず、予定どおり部分切除を行いました。また、医師から「アポクリンがんか浸潤性乳管がん(乳管から発生したがんが、周囲の組織にしみ出すように広がっているタイプ)のいずれかであり、HER2(細胞の増殖に関わるタンパク質。乳がんではタイプ分類や治療方針を判断する指標の一つ)の数値なども境界値のため、術後の病理検査で詳しく調べる。術後に抗がん剤治療(ドセタキセルとシクロホスファミド)と放射線治療を行う」とも説明があり、図解も交えて治療後の流れについても丁寧に解説してもらいました。
編集部
診断が下された瞬間の心境を教えてください。
村上さん
恐怖心などはありませんでした。医師からも「病巣のサイズや状況から命に関わるようなものではない」という説明があったので、落ち着いて受け止めることができた気がします。
編集部
手術はどのような流れで行われたのでしょうか?
村上さん
3月11日に部分切除術を受けました。手術後、入院中に病室まで様子を見に来た医師から「左右で違いがないように手術しました」という話があり、アピアランス(外見)の細部まで気を配ってもらえたみたいです。
抗がん剤の副作用も十人十色、自分の健康や生活と向き合う
編集部
術後は、どのような治療を受けたのでしょうか?
村上さん
摘出手術の後、抗がん剤治療を4回、放射線治療を25回受けました。実は、治療に入る前にも準備があって、乳がんの摘出手術前には全身麻酔に備えて歯のぐらつきやむし歯のチェックを行い、抗がん剤治療前には同じ病院の歯科口腔外科で、横向きに生えていた親知らずの抜歯などもしてもらいました。
編集部
アポクリンがんと判明してからの治療方針について教えてください。
村上さん
乳がんは大きく分けて、ホルモン受容体陽性、HER2陽性、トリプルネガティブ(ホルモン受容体[エストロゲン・プロゲステロン]とHER2のいずれも陰性のタイプ)の3つのサブタイプに分かれていて、私のアポクリンがんはトリプルネガティブに分類されていました。医師からは「トリプルネガティブのがんは再発のリスクが高く、予後が心配されることも多い中、幸いにもアポクリンがんは予後がよいタイプである。ただ、腫瘍のサイズやトリプルネガティブであることから、標準治療の対象として抗がん剤と放射線治療が適用される」という説明を受けました。過去に原発(最初にがんが発生した臓器や部位)が異なる子宮頸がんと甲状腺がんを経験していることもあり、抗がん剤治療をお願いしました。
編集部
抗がん剤治療の副作用で、印象に残っていることを教えてください。
村上さん
髪が抜けたときのショックは、今でも印象に残っています。事前にいろいろ情報を集め、ウィッグに関する県の補助制度を調べたり、もともとおしゃれウィッグを着用している友人たちから話を聞いたり、普段と違う髪色のウィッグを複数購入したりして心構えをしていたつもりでした。しかし、いざお風呂場で一気に髪が流れていくさまを見たときは耐えられませんでしたね。
編集部
脱毛以外に副作用はありましたか?
村上さん
私の場合、口内炎もできず、食欲も落ちることはありませんでしたが、味覚の変化はありました。具体的に言うと、冷たい日本茶や烏龍茶を飲んだ後、下水のような悪臭を感じることがあったんです。ただ、食事に関しては「おいしい」の範囲内に収まる変化で、困ることはなくきちんと食べられていました。
3回目、4回目の抗がん剤治療の影響か、もしくは在宅勤務に切り替えて運動量が減ったからなのか、筋力が低下し、歩くことが非常につらくなりました。自宅があるアパートの2階までの階段を一気に上れなくなり、放射線治療の初期では、駐車場から病院の受付まで、途中で休まないと歩けない状態でした。
編集部
現在の体調について教えてください。
村上さん
おおむね元気です。ただ最近は寒さのせいか、リンパの一部切除(センチネルリンパ節生検)を受けた脇を中心に、少し動かしづらくなっている気がします。あとは、たまに胸の傷も少し痛むことはあります。無理はしないようにとは思っていますが、仕事の量が多く22時くらいまで残業してしまうこともあるので、セーブしないといけないと思っています。

