子宮頸がんは「マザーキラー」と呼ばれることもある疾患で、日本では年間約3000人が子宮頸がんで命を落としており、幼い子どもを残して亡くなるケースも少なくありません。子宮頸がんの対策として、原因となるHPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチン接種と検診を組み合わせることで発症リスクを大きく下げられることが分かっています。それにもかかわらず、2015年時点の日本では、対象世代における接種率は0.6%にとどまっていました。本稿では、子宮頸がんサバイバーである放送作家・たむら ようこ氏の実体験とともに、いわゆる「HPVワクチン薬害訴訟」をめぐる科学的検証やメディアの課題、今後の予防啓発のあり方について考えます。
たむら ようこ(放送作家 ベイビー・プラネット 代表取締役社長)
放送作家/ベイビー・プラネット代表取締役社長/日本放送作家協会理事。NHKのサラメシ、テレビ朝日系のDAIGOも台所などバラエティ・情報番組を中心に構成や脚本を手がける。過去にはフジテレビのサザエさんも手がけていた。子宮頸がんステージ3Bの闘病経験を持ち、メディアを通じた社会課題の発信にも取り組んでいる。
角田郁生(医師・近畿大学医学部微生物学講座教授)
近畿大学医学部微生物学講座教授。東北大学医学部卒業後、米国ユタ大学医学部准教授、ルイジアナ州立大学医学部准教授を歴任。2016年より近畿大学でウイルス学・免疫学の研究教育に従事。HPVワクチン薬害訴訟では、国側証人として科学的根拠に基づく安全性の証言を行っている。
堀江貴文(実業家・一般社団法人予防医療普及協会理事)
一般社団法人予防医療普及協会理事。HPVワクチンの普及啓発活動に取り組み、国会議員へのアンケート実施や記者会見を通じて積極的勧奨再開に貢献。ロケット開発を手がけるインターステラテクノロジズのファウンダーとしても知られる。
「5年生存率17%」と宣告…息子は1歳、闘病生活の始まり
たむら ようこ:
ステージ3Bの子宮頸がんと診断されたとき、息子はまだ1歳でした。私の場合、腫瘍の直径は7.2cmに達しており、「5年生存率は17%」とも告げられました※。手術は困難と判断され、抗がん薬と放射線による治療を重ねる中で、将来的な妊娠が極めて難しい状況であると説明を受けました。
入院中は、息子が面会に来てくれる時間だけが心の支えでした。しかし、息子は病室に入るとカーテン裏に隠れてしまいます。耳を澄ますと、「バイバイいやよ、バイバイいやよ」と繰り返していました。会える喜びとすぐに訪れる別れを、幼いながらに感じ取っていたのかもしれません。
入退院を繰り返すうちに息子は少し成長し、面会の帰り際にはエレベーターに飛び乗り、笑顔で「ママ、バイバイ」と手を振ってくれるようになりました。一方で、ドアが閉まった後にも聞こえるほど大きな泣き声が聞こえてきたこともあります。
子宮頸がんは若い世代でも発症する可能性があり「マザーキラー」とも呼ばれます。進行すれば幼い子どもを残して命を落とす可能性があることを、私は身をもって知りました。
※当時のたむらさんの容体に基づいて担当医が判断した数値であり、予後には個人差があります
女性の90%がHPVに感染、男性は中咽頭がんリスク上昇
角田郁生:
子宮頸がんはHPV感染と関連するがんです。過去の研究によれば、性交渉の経験がある女性の約90%が生涯に一度はHPVに感染すると報告されています。
一方で、HPVは女性だけの問題ではありません。中咽頭がん、肛門がん、陰茎がんなど、HPVが関与するがんは複数あり、特に中咽頭がんは男性に多いとされています。
米国疾病予防管理センター(CDC)の報告では、HPV関連がんの中で中咽頭がんの患者数は増加傾向にあります。日本でも中咽頭がんの罹患数は年間約5000人とされており、決して少なくありません。子宮頸がんはHPVが関与するがんのうち、氷山の一角ともいえます。

