「心房細動」を放置すると『脳梗塞』リスク約5倍? 治療と予防を医師が解説

「心房細動」を放置すると『脳梗塞』リスク約5倍? 治療と予防を医師が解説

心房細動は、日本人に最も多い不整脈の一つです。動悸や息切れなどの症状が表れる場合もありますが、約半数は自覚症状がないまま進行するとされています。その一方で、脳梗塞の発症リスクを大きく高めると知られており、脳梗塞をきっかけに初めて見つかるケースも少なくありません。近年はスマートウォッチなどによる早期発見も増えており、適切な治療によって重篤な合併症の予防が期待できます。本記事では、心房細動の症状や診断方法、治療の選択肢、脳梗塞予防のポイントについて、百合ヶ丘つだ内科心臓不整脈クリニック院長の津田泰任先生に詳しく話を聞きました。

津田 泰任

監修医師:
津田 泰任(百合ヶ丘つだ内科心臓不整脈クリニック)

百合ヶ丘つだ内科心臓不整脈クリニック 院長。2005年山口大学医学部医学科卒業後、福岡和白病院にて初期臨床研修を行う。川崎幸病院では循環器内科医長、総合診療部救急部医長、不整脈電気生理グループ長を歴任し、「断らない救急」を掲げ救急医療と循環器診療に従事。横浜新都市脳神経外科病院、AOI国際病院循環器内科 不整脈先端治療センター医長などを経て現職。生活習慣病診療からカテーテル治療、不整脈治療まで幅広く対応している。日本内科学会総合内科専門医、日本循環器学会循環器専門医、日本不整脈心電学会不整脈専門医。

「心房細動」とは何か――なぜ脳梗塞と深くつながっているのか

「心房細動」とは何か――なぜ脳梗塞と深くつながっているのか

編集部

心房細動とはどのような状態を意味するのでしょうか。

津田先生

心房(心臓の上側にある部屋)が細かく不規則に震え、本来のポンプ機能を果たせなくなる不整脈の一種です。心臓は通常、規則正しく拍動して全身に血液を送り出しています。しかし、心房細動が起こると、1分間に300~500回以上も細かく不規則に震えます。その結果、本来のように全身へ十分な血液を送り出せなくなります。

編集部

心房細動ではどのような自覚症状が表れますか。他の不整脈との違いについても教えてください。

津田先生

動悸やめまい、息切れ、胸部不快感などの自覚症状が表れる場合もありますが、約半数は無症状です。
他の不整脈(期外収縮など)は一時的な脈の飛びを感じさせます。一方、心房細動は脈が完全に不規則に乱れ続ける点が異なります。無症状でも心房内に血栓(ごく小さな血の塊)ができやすく、米国の大規模心臓研究「Framingham研究(フラミンガム研究)」では、脳梗塞の発症リスクが心房細動のない人と比べて約5倍に上がると示されています。

編集部

心房細動はなぜ脳梗塞のリスクが高まると言われるのでしょうか。血栓ができるメカニズムを教えてください。

津田先生

脳梗塞のリスクが高まる理由は、心臓の中で血栓が作られるためです。心房細動が起きると、心房が細かく震えた状態になり規則正しく収縮できません。その結果、血液がスムーズに流れず、よどんで停滞してしまいます。血液のよどみによって血が固まりやすくなり、心房の左心耳(さしんじ:心臓の左心房にある袋状の突起部分)に血栓が形成されます。形成された血栓が剥がれて血流に乗り、脳の太い血管を詰まらせることで、重症化しやすい心原性脳塞栓症(心臓でできた血栓が原因の脳梗塞)を発症します。

編集部

心房細動を放置し続けると、脳梗塞以外にどのような合併症やリスクがあるのでしょうか。

津田先生

心房細動を放置すると、脳梗塞以外に心不全や認知症のリスクが高まります。不規則な高速拍動により心臓のポンプ機能が低下し、慢性的な負担がかかり続けることで、心不全を発症・悪化させます。心房細動がある人は、ない人に比べて心不全を発症しやすいことが知られています。さらに、微小な脳血流の低下や微小脳梗塞の多発により、認知症のリスクが高まることも報告されています。

動悸だけではない 心房細動のサインとなりやすい人の特徴

動悸だけではない 心房細動のサインとなりやすい人の特徴

編集部

心房細動は早期発見が重要だと言われますが、早く見つけることでどのようなメリットがあるのでしょうか。

津田先生

心房細動を早期発見するメリットは、脳梗塞や心不全の予防と、正常な脈の維持率の向上です。病状が慢性化する前に治療を行うことで、心臓の構造的変化(線維化:心臓の組織が硬化する変化)を防ぎ、健康な生活を長く維持しやすくなります。

編集部

最近ではスマートウォッチや家庭用心電計で心房細動に気づくケースもあると聞きます。どの程度参考になるのでしょうか。

津田先生

スマートウォッチや家庭用心電計の記録は、心房細動の早期発見において受診の重要な契機になります。スマートウォッチを用いた大規模臨床研究では、陽性と判定した中で実際に疾患があった割合は約84%に上ると報告(Apple Heart Study[2019年])されています。これまで捉えにくかった一過性の発作を自宅で記録できるため、診断を速める補助として重宝されています。ただし、スマートウォッチはあくまでスクリーニングの道具であることを忘れてはいけません。

編集部

心房細動かどうかを調べるには、どのような検査が行われるのでしょうか。

津田先生

心房細動の確定診断には、主に12方向から心電図を記録する「標準12誘導心電図」と24時間~7日間の長時間連続して心電図を記録する「ホルター心電図」の2つの検査が行われます。医療機関で最初に行う標準12誘導心電図は数秒間の記録ですが、持続性心房細動に対しては高い診断精度を持ちます。突然起きて自然に治まる「発作性心房細動」の場合、来院時に脈が正常に戻っていると見落とされるリスクがあります。そのリスクを補うのがホルター心電図です。24時間にわたり日常生活中の心電図を連続記録することで、発作性心房細動の検出率を高めると報告されています。より長期の記録が可能な携帯用心電計や皮下に植え込むループレコーダー(小型の心電計を胸の皮下に留置する装置)なども、潜在的な心房細動の発見に有用です。

編集部

心房細動になりやすい人の特徴やリスク因子があれば教えてください。

津田先生

心房細動のリスク因子は多岐にわたりますが、主な要因は加齢と高血圧です。心房細動は高齢になるほど多くなります。また、高血圧を放置すると心臓(心房)に慢性的な圧力がかかり、心房細動の発症リスクが約1.4~1.5倍に高まると示されています。そのほかの重要なリスク因子として糖尿病、肥満、睡眠時無呼吸症候群(SAS)、過度な飲酒や喫煙、過労や精神的ストレスなどが挙げられます。特に肥満や睡眠時無呼吸症候群は、心臓の線維化を促すリスク因子として近年の研究で指摘されています。

配信元: Medical DOC

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