橋本病の疑いがあるといわれた方や、すでに診断されて治療・経過観察を続けている方にとって、血液検査の数値は現在の状態を知るための大切な手がかりです。一方で、検査結果に並ぶTSH、FT4、抗TPO抗体などの項目をみても、それぞれが何を表し、数値が高い・低い場合にどのような意味があるのかわかりにくいことがあります。
この記事では、橋本病の血液検査で確認する甲状腺ホルモンや自己抗体の意味、TSHやFT4の見方、自己抗体の数値と病気の状態との関係を解説します。

監修医師:
林 良典(医師)
名古屋市立大学
【経歴】
東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科、NTT東日本関東病院予防医学センター・総合診療科を経て現職。
【資格】
医学博士、公認心理師、総合診療特任指導医、総合内科専門医、老年科専門医、認知症専門医・指導医、在宅医療連合学会専門医・指導医、日本緩和医療学会認定登録医、禁煙サポーター
橋本病で調べる血液検査の項目と数値の見方

血液検査で甲状腺ホルモン関連の数値は何を意味しますか?
血液検査で甲状腺ホルモン関連の数値を調べる目的は、現在の甲状腺の働きを確認することです。橋本病は、診断されてもすぐに甲状腺機能が低下するとは限らず、甲状腺ホルモンが保たれたまま経過する方もいます。一方で、慢性的な炎症によって甲状腺の組織が傷つくと、甲状腺ホルモンが不足し、甲状腺機能低下症に移行することがあります。血液検査は、甲状腺ホルモンの量を示すFT4やFT3と、甲状腺を刺激するTSHを確認します。FT4やFT3は身体で働くホルモンの量を表し、TSHは脳が甲状腺にどのくらいホルモンを作るよう指令を出しているかを示します。
TSHの基準値と異常時の意味を教えてください
TSHの基準値は検査方法によって異なりますが、おおむね0.4〜4.5 μU/mL、または0.35〜4.94 μU/mLが目安です。橋本病で甲状腺機能が低下し始めると、FT4が不足する前からTSHが基準値を超えて高くなることがあります。TSH高値は、甲状腺ホルモンが不足している、または不足し始めているサインです。反対に、甲状腺ホルモンが過剰な状態ではTSHは低くなります。参照:『処方箋に印字する検査値の基準範囲』(千葉大学医学部附属病院)
FT4とFT3の数値はどのように読み取りますか?
FT4とFT3は、血液中で働く甲状腺ホルモンの量を示す数値です。基準値は検査方法によって異なりますが、一般的にはFT4が0.7〜1.48 ng/dL、FT3が1.71〜3.71 pg/mL程度です。橋本病で甲状腺の働きが低下すると、まずFT4が低下することがあります。FT3はしばらく正常範囲に保たれることがありますが、機能低下が進むとFT3も低下します。FT4とTSHを組み合わせると、甲状腺機能低下の程度を判断しやすくなります。FT4が低くTSHが高い場合は顕性甲状腺機能低下症、FT4が基準値内でもTSHだけが高い場合は潜在性甲状腺機能低下症と判断されます。
参照:『処方箋に印字する検査値の基準範囲』(千葉大学医学部附属病院)
自己抗体の数値と橋本病との関係

抗TPO抗体や抗Tg抗体はどのような検査項目か教えてください
抗TPO抗体や抗Tg抗体は、橋本病に関わる自己免疫反応を確認するための検査項目です。橋本病は、本来は身体を守る免疫の仕組みが、自分の甲状腺を誤って攻撃してしまう自己免疫疾患です。この反応が甲状腺で慢性的に続くと、甲状腺が腫れたり、時間をかけて甲状腺機能が低下したりすることがあります。抗TPO抗体は、甲状腺ホルモンを作る過程に関わる酵素に対する抗体です。抗Tg抗体は、甲状腺ホルモンの材料となるタンパク質に対する抗体です。どちらも、甲状腺に自己免疫による炎症が起きているかをみる検査として用いられます。
抗体の数値が高いことは何を意味しますか?
抗TPO抗体や抗Tg抗体が基準値を超えている場合、甲状腺に対する自己免疫反応が起きていることを意味します。つまり、本来は身体を守る免疫が自分の甲状腺に反応している状態で、橋本病を疑う手がかりです。ただし、抗体の数値が高いことだけで、すぐに甲状腺機能が低下している、または治療が必要と決まるわけではありません。橋本病の診断は、甲状腺の腫れや超音波検査の所見、TSHやFT4などの甲状腺機能も併せて確認します。
抗体の数値は病気の重症度を反映しますか?
抗TPO抗体や抗Tg抗体の数値の高さは、現在の甲状腺機能低下の程度や症状の強さと、必ずしも比例しません。抗体の数値がかなり高くても甲状腺機能が正常に保たれている方もいれば、抗体の数値がそれほど高くなくても甲状腺機能低下症が進んでいる方もいます。そのため、抗体価だけをみて重症かどうかを判断することはできません。一方で、抗体価が高いことは、将来の甲状腺機能を考えるうえで参考になります。抗TPO抗体や抗Tg抗体が高値の方は、長期的に甲状腺機能低下症へ移行しやすい傾向があります。現在の機能が正常でも、TSHやFT4の定期的な確認を続けることが、変化に早く気付くために役立ちます。

