うつ病とアルコールの問題は、互いに影響し合う関係にあることが少なくありません。なぜうつ病を抱える方が飲酒に依存しやすくなるのか、また飲酒量と精神健康の悪化はどのようにつながっているのか。加えて、すでにうつ病の治療を受けている方への飲酒の影響についても、詳しく取り上げます。

監修医師:
後平 泰信(医療法人徳洲会札幌もいわ徳洲会病院)
2009年に旭川医科大学医学部を卒業。循環器内科のスペシャリストとして、長年、札幌東徳洲会病院を中心に救急医療や心疾患の治療に従事。2023年には睡眠・無呼吸・遠隔医療センター長を歴任し、最新技術を用いた診療体制の構築に尽力。2024年より病院長に就任し、2025年10月の「札幌もいわ徳洲会病院」への名称変更。日本循環器学会 認定循環器専門医。日本睡眠学会 総合専門医・指導医。日本スポーツ協会公認 スポーツドクター。日本内科学会 認定内科医。
アルコールとうつ病の共存リスク
うつ病とアルコールの問題は、互いに影響し合う「共存」の関係にあることが多く、この関係を理解することは治療や対策を考えるうえで非常に重要です。
うつ病がある方が飲酒に依存しやすい理由
うつ病を抱えている方の中には、つらい気持ちや不眠を和らげるためにお酒に頼るケースが少なくありません。アルコールは一時的に不安や気分の落ち込みを和らげる働きをするため、「飲むと楽になる」という経験を重ねるうちに依存が深まりやすくなります。
しかし先述のとおり、アルコールは長期的には気分を安定させるどころか、精神的なバランスをさらに乱します。うつ病の症状を和らげようとしてお酒を飲むことで、うつ病そのものが悪化するという皮肉な状況が生まれることがあります。
うつ病とアルコール依存症が同時に存在する「二重診断(dual diagnosis)」の状態になると、治療がより複雑になります。それぞれの問題が互いを悪化させるため、専門的なアプローチが不可欠となります。
飲酒量と精神健康悪化の関係
飲酒量が増えるほど、うつ病や不安障害などの精神疾患リスクが高まる傾向にあります。厚生労働省が示す「節度ある適度な飲酒量」は、純アルコール量で1日あたり約20gとされています(ビール中瓶1本、日本酒1合程度に相当)。
これを上回る飲酒が習慣になると、精神的な健康への影響が出やすくなります。また、週に数回まとめて飲む「まとめ飲み(ビンジドリンキング)」も、精神健康への悪影響が報告されています。
飲酒量のコントロールが難しいと感じる方、飲むと気分が大きく落ち込む方、朝から飲みたいという気持ちが生じる方は、精神科や心療内科への相談を検討することが望ましいでしょう。
寝酒がうつ病の治療を妨げる理由
すでにうつ病の治療を受けている方にとっても、飲酒は大きな問題です。アルコールは薬の効果を妨げ、治療の経過を複雑にする可能性があります。
抗うつ薬とアルコールの相互作用
うつ病の治療で広く使われる抗うつ薬(選択的セロトニン再取り込み阻害薬などを含む)は、アルコールとの相互作用が生じる場合があります。アルコールは中枢神経に作用するため、薬の鎮静作用を増強させたり、副作用を強めたりする可能性があります。
具体的には、眠気・めまい・集中力の低下などの症状が現れやすくなることがあります。また、アルコール自体がうつ病の症状を悪化させるため、薬の効果が正確に評価しにくくなるという問題もあります。
医師から抗うつ薬を処方されている場合、飲酒は避けることが強く求められます。飲酒の習慣がある方は、治療開始前に必ず担当医師に相談することが大切です。
回復の遅延と再発リスクへの影響
うつ病の治療中に飲酒が続くと、治療期間が長引いたり、回復後の再発リスクが高まったりすることが懸念されます。アルコールが脳内の神経伝達物質のバランスを乱し続けることで、薬や心理療法による改善の効果を相殺してしまう可能性があるためです。
うつ病からの回復には、睡眠の質・生活リズム・心理的なサポートなど、複数の要素が絡み合います。飲酒はこれらすべてに悪影響を与えるため、治療の妨げになりやすい要因の一つとして位置づけられています。
回復を確かなものにするためにも、治療期間中の飲酒は控えることが、多くの場合において医師からも推奨されます。うつ病の治療に取り組んでいる方は、飲酒習慣についても率直に医師に伝えるようにしましょう。

