●隠しやすい証拠だからこそ、先に押さえられる
また、脱税事件では、客観証拠として会社の帳簿や会計データが重要になります。
これらは社長の指示ひとつで書き換えも削除も容易にできるため、証拠隠滅のおそれは高いと考えられます。
だからこそ国税局の査察部(通称マルサ)は、気づかれないよう準備し、予告なしに一斉捜索して資料を一気に押収します。
そうなると、逆に、主要な資料を当局が押さえてしまえば、被疑者はもう物を隠せません。証拠隠滅のおそれは、その分だけ小さくなります。
つまり、ひとくちに脱税事件といっても、資料がどの程度捜査機関によって確保されているかが逮捕のリスクを判断する一つの要素となります。
ただ、資料だけでなく、脱税では「誰の指示だったのか」という関係者の証言も重要になります。資料を押収した後でも、経理担当者などと口裏を合わせるおそれがあれば、逮捕が必要と判断されます。
●「認めれば在宅、否認すれば逮捕」なのか
報道では、三崎さんは正当な経費である(=犯罪は成立しない、という「否認」)と主張して逮捕され、黒木被告は当初から容疑を認めて全額納めていたとされます。
否認していること自体を理由に証拠隠滅のおそれを認めることは、古くから裁判例が否定してきました。逮捕ではなく保釈の事案ではありますが、仙台高裁昭和29年(1954年)3月22日決定は、否認しただけで保釈を取り消すことはできないとしています。
それでも実務では、認めているかどうかが判断材料の一つとして働きます。認めていれば証拠隠滅のおそれがないと判断しやすい反面、否認した事件ではそう判断できない、といわれます。
これは抽象的なおそれだけで身柄拘束を認めているのではないか、という批判があります。否認で拘束が長引いたり、自白を迫られたりすることが無いとはいえず、「人質司法」と呼ばれてきました。
小倉匡洋(弁護士ドットコムニュース編集部記者・弁護士)

