膵管内乳頭粘液性腺がん(IPMC)は、一般的な膵臓がんとは性質が異なるタイプの膵臓がんです。膵臓にできた袋(嚢胞[のうほう]性病変)にある粘液を作り出す細胞がポリープのように大きくなりがんになったもの、もしくは主膵管(膵臓の中を通り、膵液を運ぶいちばん太い管)の中にできた粘液を作り出す細胞ががん化したものとされます。自覚症状が出にくく、ほかの目的で受けた検査の途中などで偶然見つかることも少なくありません。
圭一さんも、膵臓に関する自覚症状がない中、別の不調をきっかけに受けた検査で思いがけず見つかりました。40代で膵臓がんと診断され、2度の手術と再発を経験した圭一さんに、発覚から診断、治療、現在の生活までの経緯を聞きました。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2026年1月取材。
体験者プロフィール:
圭一さん
1975年生まれ、大阪府在住。金属加工会社に勤務。2023年、体調の変化をきっかけに受けた検査で、膵臓の異常が偶然見つかる。2024年に手術を受けて膵臓がん(IPMC)と診断され、その後の再発で再手術を経験。現在は通院を続けている。
念のための検査で病気が発覚
編集部
医療機関を受診したきっかけを教えてください。
圭一さん
2023年11月に続いた下痢と便秘です。高血圧で通っているかかりつけの内科で相談したところ、そこでは大腸カメラを行っていないため、別の市立病院で受けることになりました。
編集部
検査では何が分かったのでしょうか?
圭一さん
大腸カメラの結果は問題ありませんでした。ただ、血液検査で腫瘍マーカー(がんがあると血液中などで値が高くなることのある物質)が基準より高く、念のため胃カメラと造影CT、MRIを受けました。すると膵臓に影が見つかり、さらに超音波内視鏡(先端に超音波の装置がついた内視鏡で、体の内側から臓器を詳しく調べる検査)で、嚢胞があると分かりました。
2024年2月には、PET-CT(がん細胞に集まる性質の薬剤を使って全身を調べる検査)を受けました。このときは、がん化していないという結果でした。
編集部
医師からは、どのような治療を提案されたのでしょうか?
圭一さん
「今後がん化する可能性があるので、できれば手術したほうがよい」と勧められました。ただ、その病院では開腹手術しか行っておらず、ロボット支援手術ができる病院を紹介してもらい、転院しました。
編集部
転院先では、どのような検査や手術を受けたのでしょうか?
圭一さん
転院先では2024年3月に検査入院し、もう一度超音波内視鏡を受け、改めて嚢胞が確認されました。内視鏡の先端から針を出して病変を刺し、細胞を採取できるそうですが、刺した拍子に中の液体を周囲に広げてしまうおそれがあり、細胞は採りませんでした。「膵臓の体部に嚢胞がある」とのことで、2024年4月に膵体尾部切除術(膵臓の体部から尾部を切除する手術)を受けました。
退院後、最初の通院のときに、手術中に採った組織を病理検査(顕微鏡で組織を調べ、がんかどうかなどを確認する検査)の結果が出て、膵臓がんのステージⅡAと知らされました。医師によると「一般的な膵臓がんとは違うタイプで、通常の膵癌に比べると症例が少ない」とのことでした。自覚症状は、まったくありませんでした。
編集部
診断されたときは、どのような心境でしたか?
圭一さん
おなかが痛いとか背中が痛いとか、何も症状がなかったので、いまだにピンときていません。
再発と再手術、血糖値コントロールの難しさ
編集部
術後の経過を教えてください。
圭一さん
手術後すぐに、抗がん剤の服用が始まりました。4週間は朝晩飲み、2週間休薬。これを1クールとして、6クール続けました。その間も3カ月に1回の造影CTと、月に1回の腫瘍マーカー検査を受けました。CTは問題ありませんでしたが、腫瘍マーカーの値は徐々に上がっていきました。
膵液(消化を助ける液)が少なくなったため、消化酵素の薬を術後から飲み始めました。また、膵臓を4分の3ほど切除したことで、インスリン(血糖値を下げる働きをするホルモン)が足りなくなり、2025年1月ごろから血糖値を整える薬を飲んでいます。
編集部
その後、病状はどう変化したのでしょうか?
圭一さん
2025年3月の造影CTで膵臓の頭部に影が見つかり、同年4月の検査入院では、超音波内視鏡を使って膵臓の組織を採取し、採った組織や細胞を顕微鏡で調べる検査(病理検査)を受けたところ、再発を告げられました。5月には、膵頭十二指腸切除術(膵臓の頭部や十二指腸などをまとめて切除する手術)をロボット支援手術で受けました(※)。3週間ほどで退院し、術後にまた抗がん剤の服用が始まりました。今回の手術後は腫瘍マーカーが基準値に収まり、毎月の血液検査も造影CTも、今のところ問題ありません。
※体部・尾部はすでに切除済みのため、この手術で膵臓はすべて摘出されたことになります
編集部
発症後、日常生活にはどのような変化がありましたか?
圭一さん
抗がん剤治療の大きな副作用はほとんどなく(※)、朝たまに体がだるくて動けないことはあったものの、仕事には行っていました。生活に影響しているのは、膵臓がなくなったことで起こった膵性糖尿病(膵臓の病気や手術が原因で起こる糖尿病)のほうです。体重は、一回目の手術前より20kgほど減りました。退院直後はあまり食欲がありませんでしたが、今は手術前とほぼ同じくらいの量を食べています。難しいのは血糖値のコントロールです。炭水化物の量の計算を間違えると、高血糖になったり低血糖になったりします。仕事中も少し動きすぎると、すぐに低血糖になって……。膵臓がないとグルカゴン(血糖値を上げる働きをするホルモン)が出ないため、自分で血糖を上げることができません。血糖値は、腕に付けたリブレ2(持続的に血糖値を測定する機器)で測っています。
※経過には個人差があります
リブレ2を装着中
編集部
今後は、どのような治療を予定していますか?
圭一さん
今は抗がん剤の服用が終わり、膵液の代わりとなる消化酵素の薬と、1日4回のインスリンの自己注射を続けています。今後は3カ月に1回、造影CTと血液検査を予定しています。
1日4回、インスリンの自己注射を継続している
編集部
闘病を続ける中で、心の支えになっているものは何ですか?
圭一さん
子どもがまだ学生なので、「子どもが社会人になるまでは頑張って仕事をしないといけない」という思いですね。
編集部
日々の生活で、特に困っていることはありますか?
圭一さん
先ほども伝えたとおり、血糖値のコントロールです。食事に含まれる炭水化物の量が分からないと、インスリンの量を決められません。うまく食べられないので、忘年会のような集まりや外食もなかなか難しいですね。まだ乗り越えられたとは思っていませんが、1日でも長く元気でいられたらと思っています。

