「他の大学で普通に認められることが、なぜ裁判を起こさなければ認められないのでしょうか」
大阪大学で約30年にわたり英語を教えてきた非常勤講師の新屋敷健さん(65)は、そう疑問を投げかける。
多くの大学では、非常勤講師を労働者として直接雇用しており、一定の条件を満たせば無期雇用への転換も認めている。
一方、大阪大は長年、非常勤講師との契約を「準委任契約」と位置づけ、無期転換を認めず、新屋敷さんら非常勤講師4人を雇い止めした。
大学側を訴えた裁判で、新屋敷さんらは一審では敗訴したものの、大阪高裁は今年5月、契約の形式ではなく実際の働き方を踏まえ、4人の労働者性を認めて逆転勝訴の判決を言い渡した。
現在、大学側が上告し、判断は最高裁へ委ねられている。約20年にわたり大学側と団体交渉を続けてきた新屋敷さんに、長い闘いへの思いを聞いた。(ジャーナリスト・田中圭太郎)
●「高裁で勝っても、まだ認められない」
「控訴審判決を聞いて、ホッとしました。一方で、他の大学は無期雇用への転換を申し込めば認められるのに、団体交渉を20年近く続けて、裁判まで起こして、高裁で勝っても、大阪大は『最高裁で判決が確定するまで認めない』と言っています」
こう話す新屋敷さんは、大阪外国語大学だった1993年から、英語の授業を担当してきた。
当初は国家公務員の一般職だったが、国立大学法人化を経てパート職員となり、2007年の大阪大との統合で「準委任契約」へと変更された。
新屋敷さんは2020年から2021年にかけて、労働契約法に基づく無期雇用への転換を大学に申し込んだ。
しかし大学は、非常勤講師との契約は準委任契約であり、労働契約ではないとして申し込みを認めなかった。
さらに、2023年3月末で雇い止めされたことから、同じく長年語学を担当してきた非常勤講師3人とともに、大学を相手取り、地位確認と未払い賃金の支払いを求めて提訴した。
一審の大阪地裁は2025年1月、4人の労働者性を否定し、請求を棄却した。
しかし今年5月、大阪高裁は一転して、契約の名称ではなく実際の働き方を重視。4人を労働契約法上の労働者と認め、雇い止めは無効だと判断した。
判決は4人の無期転換を認めるとともに、大阪大に未払い賃金約1500万円の支払いを命じた。
大阪大はこの判決を不服として上告している。
控訴審判決後、新屋敷さんが委員長をつとめる関西圏大学非常勤講師組合と大学側は団体交渉をおこなった。しかし、大学側の姿勢は変わらなかったという。
「6月2日に団体交渉をした際、大学側は『判決が確定したら従う』と言っていました。けれども、最高裁が不受理にして勝訴が確定するまでは、何もしないでしょう。大学としてのスタンスは全然変わっていない感じです」
●多くの大学は「雇用契約」、大阪大は「準委任契約」
裁判のポイントは、大阪大が長年、非常勤講師との契約を「準委任契約」と位置づけてきたことだ。
準委任契約は業務委託契約の一種で、大学側は「労働者ではない」と主張してきた。一方、新屋敷さんらは、授業の実施や成績評価などについて大学の指揮監督を受けており、実態は労働契約だったと訴えている。
この違いが、裁判の大きな争点となった。
実際に国立大学法人の多くは、法人化後も非常勤講師と労働契約を結んでいた。準委任契約や請負契約としたのは、大阪大など一部の大学に限られていたという。
さらに2013年、労働契約法の改正により、有期雇用で5年を超えて働いた労働者には、無期雇用へ転換する権利が認められた。
しかし大阪大は、非常勤講師は労働契約ではなく準委任契約だとして、この制度の対象外とした。
そして2023年3月末、2013年を起点に10年以上勤務していた約100人の非常勤講師を雇い止めした。新屋敷さんら4人は、その直前に提訴している。

