私が10代のころ、家には認知症の祖父がいました。介護は主に両親が担っていましたが、私はその様子を近くで見たり、できる範囲で少し手伝ったりしていました。そんなある冬の深夜、家族が寝静まった家の中で、思いがけない出来事が起こりました。廊下から聞こえてきた不気味な水音をきっかけに、今でも忘れられない光景を目にすることになったのです。
深夜に聞こえた水音
ある冬の深夜のことです。家族は全員寝静まっていました。当時、祖父と父は同じ部屋で寝ており、祖父が夜中に起きたときには、普段であれば父がすぐに気付いて対応していました。
しかし、その夜は父も日ごろの疲れがたまっていたのか、ぐっすり眠っていたようです。私が目を覚ましたのは、深夜2時ごろでした。
「何か水音がする……?」
そう思った瞬間、廊下のほうから「びちゃ、びちゃ」と嫌な感じの音が聞こえてきました。寝ぼけながらも胸騒ぎがして、私は起き上がり、おそるおそる廊下へ向かいました。
廊下にいた、ずぶ濡れの祖父
廊下に出た私の目に飛び込んできたのは、ずぶ濡れになった祖父の姿でした。服を着ておらず、体は冷え切っているように見えました。
「おじいちゃん、どうしたの!?」。驚いた私は、思わず大きな声で尋ねました。すると祖父は、ぶるぶる震えながら「風呂が冷たい」と怒っていたのです。
どうやら祖父は、夜中にひとりでお風呂に入ろうとしたようでした。真冬の深夜です。沸かしてあったお湯も、時間がたてばすっかり冷めていたはずです。私は「それは冷たいはずだ」と思いながらも、とにかく祖父をそのままにしておくわけにはいきませんでした。

