【展覧会レポート】アルベール・マルケ展に、愛した水辺の風景が甦る【三重県立美術館/東京SOMPO美術館へも巡回!】

水辺を描き続けたフランスの画家、アルベール・マルケをご存知ですか?その穏やかで美しい世界にどっぷり浸れる展覧会が開催されています。

久留米市美術館/筆者撮影

久留米市美術館の巡回は7月29日(水)までですが、三重県立美術館で2026年8月8日(土)〜9月13日(日)と東京SOMPO美術館で2026年9月22日(火)〜12月13日(日)に巡回があります。本記事は、アルベール・マルケ展がどんな展覧会なのか気になっている方のために、久留米市美術館を実際に訪れた際のレポートです。

「美術展ってちょっと敷居が高いかも…」という方にもぜひ知ってほしいマルケの魅力。今回は、わたしが実際に会場で魅了されたポイントをお届けします!

そもそもアルベール・マルケとは?

アルベール・マルケはフランスの画家で、水辺の風景を描き続けたことで知られています。「ちょっと聞き馴染みがないかも……」という方も、アンリ・マティスや「フォーヴィスム(野獣派)」という言葉ならピンとくるかもしれません。

実はマルケは、マティスと美術学校時代からの大親友でした。お互いの才能を認め合い、肩を並べて制作に没頭したといわれています。

アルベール・マルケ(1875年〜1947年) 出典:Wikimedia Commons

フォーヴィスム(野獣派)というと原色を大胆に使っていて、筆遣いもワイルドな印象があります。一方、マルケは落ち着いた色彩と穏やかなタッチが特徴です。グレーや淡いブルーといった「中間色」を好み、観察に基づくシンプルな構図を大切にしていました。

自室の窓から見えるセーヌ河の風景やノートル=ダム大聖堂など、天候や時間帯によって異なる表情を、繰り返し描いたそうです。マルセイユ、ナポリ、ヴェネツィア、アルジェなど、水辺の風景を求めて旅を続けたことでも知られています。

ちなみに、人物や建物を簡潔な線で表現するのもマルケの得意技です。その洗練された技術を認め、親友のマティスは親しみを込めて「われらが北斎」と呼んでいたのだとか!わたしたち日本のアートファンにとっても、なんだか親近感が湧いてくるエピソードですよね。

わたしが心惹かれた6つの作品

ここからは、わたしが心を撃ち抜かれた6つの作品についてご紹介させてください。

《パリのノートル=ダム大聖堂の後陣》

アルベール・マルケ《パリのノートル=ダム大聖堂の後陣》1902年ごろ/ブザンソン美術考古博物館、パリ国立近代美術館(ポンピドゥー・センター)より寄託/筆者撮影

展覧会の会場に入ってすぐ、足を止めて見入ってしまいました。セーヌ河の水の色がなんともいえないくらいリアルなんです!濃い緑のようでもあり、深い青のようでもあり、あるいは黒のようでもある。どれか一色としては言い表せなくて、そのすべてが何層にも積み重なったような深みを感じます。まるで、長年の歴史や街の営みが自然に蓄積されて生まれたような印象でした。

さらに、快晴の日光を浴びた水面のつややかな質感まで伝わってきます。見ているだけで、ノートル=ダム大聖堂の近所をのんびりお散歩しているような、しあわせな錯覚に陥ってしまいました。

《パリのノートル=ダム大聖堂、積雪》

アルベール・マルケ《パリのノートル=ダム大聖堂、積雪》1916年/個人蔵(協力:パリ、ギャルリー・ド・ラ・プレジダンス)/筆者撮影

マルケは気に入った場所を、時間や季節を変えて何度も描いた画家でした。ノートル=ダム大聖堂もお気に入りスポットだったようです。《パリのノートル=ダム大聖堂の後陣》とは一転して、こちらはしんしんと雪が降る日を描いています。

ここで感動したのが、マルケの「お天気観察眼」のすごさです。雪の日の独特な曇り空を、あえて少し茶色みがかったグレーで表現しています。そして地面の雪は真っ白ではなく、ちょっと濁った印象の白。川の色も、《パリのノートル=ダム大聖堂の後陣》に比べてどんよりして見えて、街全体に陽の光が降り注いでいない、あの冬の空気が肌に伝わってくるようでした。

《ハンブルク港》

アルベール・マルケ《ハンブルク港》1909年/ボルドー美術館/筆者撮影

この絵の前に立った瞬間、思わず「おぉ……」と声が出そうになりました。蒸気や霧でやさしくかすんでいる、雨の日の港の風景です。

わたしが注目したのは濡れた地面。行き交う歩行者や街路樹の影が、しっとりと地面に映り込んでいる様子が描かれているのですが、これが本当に見事なんです。目の前の濡れた空気と地面を、そのままペリペリッと切り取って、額縁に閉じ込めたんじゃないかと思えるほどの臨場感。雨の日のちょっと不思議な匂いまで漂ってきそうでした。

《ナポリ、帆船》

アルベール・マルケ《ナポリ、帆船》1909年/ボルドー美術館/筆者撮影

《ナポリ、帆船》では、描かれている形や色がシンプルに絞られています。手前の景色と遠くの景色の対比が、かなり極端でダイナミックです。この構図と潔い割り切り方は、葛飾北斎の浮世絵を彷彿とさせました。

親友のマティスがマルケを「われらが北斎」と呼んで絶賛していた理由が、この絵を見るとなんとなくわかる気がします。仲間内でも「マルケのこのセンス、本当に天才的だよな」と一目置かれていたのだろうな、なんて当時のアトリエの会話を妄想してしまいますね。

《ル・ピラ》

アルベール・マルケ《ル・ピラ》1935年/ボルドー美術館/筆者撮影

展示室の中で、ひときわ開放的な気分にさせてくれたのがこの一枚です。画面いっぱいに広々とした海が描かれていて、思わず深呼吸をして潮の香りを感じたくなってしまいました。

遠くから見ると穏やかで美しい海なのですが、少し近づいてじっくり観察してみるとびっくり!黄色や緑、そして何色ものニュアンスの違う青色が、ものすごく繊細なグラデーションで重ねられています。刻一刻と表情を変えていく海の揺らめきが、マルケによってキャンバスに再現されていました。

《バルコニー、または縞模様の日よけ》

アルベール・マルケ《バルコニー、または縞模様の日よけ》1945年ごろ/プロシュ・コレクション(協力:パリ、ギャルリー・ド・ラ・プレジダンス)/筆者撮影

最後に心がぽかぽかと温かくなったのが、《バルコニー、または縞模様の日よけ》です。キャンバスの上半分には、強い日差しがサンサンと降り注ぐ縞模様の日よけが描かれ、まぶしいくらいの光を感じます。

でも室内の様子もおもしろいんです!部屋はひんやりとした日陰の心地よさに満ちています。外の賑やかさをそっと眺めているような、マルケの静かな時間が流れている気がして、なんだか愛おしくなりました。そして遠くをよく見ると、やっぱりそこには港の景色があります。彼の人生にとって、水辺の風景は欠かせない存在だったんだなと、胸がいっぱいになりました。

配信元: イロハニアート

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