「最近、聞こえにくくなった」と感じても、「歳のせいだから仕方ない」と諦めていませんか。加齢性難聴を完全に防ぐのは難しいものの、騒音を避ける、生活習慣病を管理するといった工夫で進行を緩やかにできる可能性があります。また、難聴の放置は生活の質の低下を招くほか、認知機能の低下や認知症との関連も報告されています。聞こえにくさの原因には耳垢や中耳炎など治療で改善が期待できる病気もあるため、自覚した時点で耳鼻咽喉科を受診することが大切です。加齢性難聴の仕組みや進行を緩やかにする工夫、補聴器を検討する目安について、ひろせクリニックの廣瀬みずき先生に聞きました。
※2026年4月取材。

監修医師:
廣瀬 みずき(ひろせクリニック)
1997年金沢医科大学卒業後、金沢大学医学部附属病院に勤務。その後、富山県立中央病院、金沢大学医学部附属病院、厚生連高岡病院、公立羽咋病院などで研鑽を積み、再び富山県立中央病院、市立砺波総合病院、金沢大学医学部附属病院にて診療に従事。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会専門医。補聴器相談医。
耳が遠くなるのはなぜ? 加齢との関係
編集部
難聴について教えてください。
廣瀬先生
「耳が遠い=年齢によるもの」と考えられがちですが、難聴の原因はそれだけではありません。難聴は大きく分けて、音の伝わりに問題がある伝音難聴と、内耳や神経の働きに問題がある感音難聴に分類されます。
編集部
年齢とともに耳が遠くなるのはよくある現象なのでしょうか。
廣瀬先生
はい、多くは60歳以降にみられます。一般的に「耳が遠くなった」と感じる状態のうち、加齢以外に明らかな原因が認められないものは「加齢性難聴(老人性難聴)」と呼ばれ、主に感音難聴に含まれます。両耳で同程度の聴力低下が起こり、特に高い音から聞き取りにくくなるのが特徴です。
編集部
なぜ聞こえにくくなるのでしょうか。
廣瀬先生
加齢に伴い、内耳の感覚細胞や神経、音を理解する脳の働きが低下するためです。その結果、音そのものは感じ取れていても、言葉としてはっきり聞き取れない状態が生じます。加齢性難聴は音が小さく聞こえるだけでなく、特に子音が聞き取りにくくなるため、「聞こえているのに何と言ったのか分からない」と感じるケースが多い傾向にあります。
編集部
どのような変化から気づく場合が多いのでしょうか。
廣瀬先生
会話の聞き取りづらさや、テレビの音量が以前より大きくなるといった変化がきっかけになります。特に騒がしい場所での会話は分かりにくくなります。また、周囲との会話がかみ合わない、多人数での会話で自分だけ聞き逃す、会話についていけないといった違和感から気づく場合もあります。
防げるの? 進行を遅らせることはできる?
編集部
加齢による難聴は防げるのでしょうか。
廣瀬先生
完全に防ぐのは困難です。しかし、進行を緩やかにできる可能性があります。日常生活の中で耳に負担をかける要因を減らし、全身の健康状態を保つ工夫が聴力の維持につながると考えられています。
編集部
どのような点に気をつければよいですか。
廣瀬先生
大きな音や騒音環境を避けるほか、適度な運動やバランスの取れた食事、質のよい睡眠が重要です。また、動脈硬化や糖尿病といった生活習慣病は内耳の血流にも影響を与えるため、生活習慣病を適切に管理すると聴力低下の進行抑制につながる可能性があります。
最近はワイヤレスイヤホンの普及により、イヤホンを使用する時間が長くなる傾向にあります。長時間の使用や大きな音量での使用は耳への負担となり、騒音性難聴の原因となるため、適切な音量と使用時間を心掛けてください。
編集部
進行するとどのような影響がありますか。
廣瀬先生
会話そのものが負担となり、人とのコミュニケーションを避けるようになります。また、難聴は日常生活の質の低下を招くほか、認知機能の低下や認知症との関連も報告されています。そのため、聞こえにくさを放置せず、早めに耳鼻咽喉科の受診をお勧めします。
編集部
どのようなタイミングで受診を考えるべきですか。
廣瀬先生
聞こえにくさを自覚した時点で、一度相談してください。加齢性難聴はゆっくり進行するため気づきにくく、自覚したときには進行している場合も少なくありません。加齢性難聴以外にも、耳垢による閉塞や中耳炎など、治療によって改善が期待できる病気が原因となっている場合もあります。早期に状態を把握し、その後の対応を考える必要があります。
編集部
確かに、聞こえにくさが加齢性難聴によるものとは限りませんよね。
廣瀬先生
そのとおりです。「歳のせい」と思っていても、実は耳の病気や、まれに脳の病気が関係しているケースもあります。そのため、自己判断せずに原因を確認する対応が、早期発見・早期治療につながります。

