「科学的根拠を出せ!」
Fさんは車椅子を押してほしいと言い、病棟内を何度も移動します。
その間も、
「お前は何も分かっていない」
「バカやな」
と文句ばかり。
私は必死に対応していました。
すると突然、
「君の言うことは科学的根拠に基づいていない!」
と大声で言われたのです。
何度説明しても聞き入れてもらえません。
ついに私も限界を迎えました。
「では、その科学的根拠に基づいていないという根拠を出してください」
「私たちは医学的根拠に基づいて仕事をしています」
思わずそう屁理屈を言い返してしまったのです。
すると、それまで勢いよく話していたFさんは急に静かになりました。
そして、
「もうベッドに戻る……」
とだけ言って病室へ戻ったのです。
数日後に渡された新聞の切り抜き
それから数日後。
私は再びFさんの担当になりました。
いつも通り検温をしていると、
「あの……」
とFさんが声をかけてきました。
差し出されたのは一枚の新聞の切り抜きです。
「後で読んで」
そう言われ、不思議に思いながら昼休みに広げてみました。
すると、記事の文字にいくつも丸印が付いています。
丸が付いた文字だけを順番に読んでみると、
「ご・め・ん」
という言葉になっていました。
さらに師長から頼まれ、しばらく病院へ来ていない奥様に連絡を取り、奥様がまた来てくれるようになりました。
その後、Fさんは奥様にも別の切り抜きを渡したそうです。
その記事の丸が付いていた文字を読むと、
「いつもありがとう」
という言葉になっていました。
後日、奥様は再びお見舞いに来られるようになり、二人は仲直りしたと聞きました。

