③《幻化》ーーー華楊の画家人生の集大成
年月と共に華楊の表現はいよいよ円熟味を増していく。彼の画業と展覧会のクライマックスを飾るのが、華楊80歳の傑作《幻化》である。
山口華楊 《幻化》 1979年 紙本彩色 155.7 ×171.1cm SOMPO美術館
「幻化」とは、「すべてのものに実体はない」という意味の仏教用語である。叢を構成する植物の一つ一つは、葉の形が描きわけられている。が、一歩離れると輪郭が溶け、微妙な階調を持った緑一色の背景となる。
そんな背景のもと、2匹の狐が円環を描くように追いかけっこをしている。柔らかくスラリとした肢体を持つ狐は、ほのかに淡い光をまとっているようで、気高さすら感じられる。現実の光景、というよりも、月明かりの中で見た幻想のようにも思える。
華楊は、晩年、著書『絵がかきたうて』の中でこう述べている。自分のモチベーションの源は、「生きているもののみが持つ生命感、生命の美である」(山口華楊著『絵がかきたうて』日本経済新聞出版社/1984年/156~157頁)と。
華楊は、若い頃に師・五雲から受けた「写生」を基礎とする教えを終生大事にし続けた。が、彼は常に目に見えるがままをそのまま絵画にしたわけではない。モチーフと向き合い、観察する中で掬い取った「生命感」や、「生命の美」への感動を絵として表現してきたのではないだろうか。
華楊が描く生命は有限で儚い。だからこそ、美しい。
そんな生命への賛歌こそが、華楊の作品群であり、この《幻化》は60年以上にわたる画業の一つの到達点と言えるのかもしれない。
山口華楊の展覧会が東京で開催されるのは、実に27年ぶりとなる。中でも、SOMPO美術館が所蔵する《葉桜》、《猿》、《幻化》は華楊の前期・中期・後期をそれぞれ代表する作品だ。
ぜひ、この機会に華楊が生涯にわたって見つめ、描き続けた生命の美に触れて欲しい。
展覧会情報
会期:2026年7月11日(土)〜8月30日(日)
会場:SOMPO美術館(新宿区西新宿1-26-1)
休館日:月曜日
観覧料金:
・当日一般 1,600円ほか
・25歳以下 1,100円
・小中高校生 無料
・障がい者手帳をお持ちの方 無料
山口華楊展 公式サイト
