展示風景
と、自信のない書き方をしたのは、私自身が水滸伝をあまり知らないから。申し訳ありませんが、展覧会を訪れる直前に慌てて「水滸伝 あらすじ」と検索するくらい、予備知識のない状態でした…。
「そんな人が展覧会を楽しめるの?」という疑問はごもっとも。ですが、「そんな人だからこそ」の発見や驚きがあって楽しい展覧会でした!
展示風景
むしろ「水滸伝? よく知らないからスルーで…」という方こそ、本展に足を運んでみていただきたいです。物語を知らない人をも惹きつける、本物の「美術の力」を目の当たりにできると思います。
国芳の出世作「通俗水滸伝」シリーズ全74図が序盤で見られる!
展示風景
本展の大きな見どころとなるのが、江戸時代の浮世絵師・歌川国芳(うたがわ くによし、1797-1861)による「通俗水滸伝」シリーズ全74図の一挙公開です。
「水滸伝」とは、108人の豪傑たちが悪政に立ち向かう、中国で生まれた物語。江戸時代の日本でも流行し、浮世絵などの題材にもなりました。
歌川国芳《通俗水滸伝豪傑百八人一個 打虎将季忠》江戸時代 文政末~天保前期(1828~33)頃 個人蔵
なかでも有名なのが国芳です。持ち前の大胆な構成力を活かし、豪傑たちのアクションを迫力たっぷりに描き出した「通俗水滸伝」シリーズは、国芳の出世作としても知られています。
本シリーズが一挙に公開される機会は珍しく、本展でも重要なパート。それが出し惜しみされることなく、最初の展示室ですべて公開されていました。
歌川国芳《水滸伝豪傑百八人之一個 清河県之産武松》 江戸時代 文政10年(1827)頃 個人蔵
水滸伝をよく知る人なら、「あっ、あの場面だ」と物語を思い出しながら鑑賞できるかもしれません。私は詳しくないので、絵を見ながら「この人はどんな人物?」「何をしている場面なんだろう?」と考えていました。
鑑賞していると自然と水滸伝そのものへの親しみが湧き、第2章から最終章まで興味深く展示を観ることができました。物語を知らない人をも序盤で深く引き込む、巧みな展示構成だと思います。
あなたの"推し豪傑"は誰?
歌川国芳《通俗水滸伝豪傑百八人之一人 花和尚魯知深初名魯達》 江戸時代 文政10年(1827)頃 個人蔵
国芳の「通俗水滸伝」シリーズは、多くの絵画で1枚につき1人の豪傑が描かれています。水滸伝に詳しくなくても見やすく、人物のアクションが良い、刺青や髭がすごい、武器がかっこいい、敵の魔物(?)がキモかわいい……など、いろいろな視点で楽しめます。
私が気になったのは、《扈三娘一丈青(こさんじょういちじょうせい)》です。テストステロンがドバドバ出ていそうな、筋骨隆々の男性たちが並ぶなか、突然現れた女性の絵にパッと目を奪われました。
歌川国芳《水滸伝豪傑百八人之一個 扈三娘一丈青》 江戸時代 文政10年(1827)頃 個人蔵
扈三娘は涼しげな表情を浮かべていますが、その両手には刀が。激しく飛んでくる矢を刀で薙ぎ払っているのでしょうか、上半身を大きく捻る力強いポーズで描かれています。
あとで調べたところ、扈三娘はもともと裕福な家の令嬢で、強さと美貌を兼ね備えた女性武将だそう。二刀流の達人で、婚約者を助けるために自ら出陣して敵を生け捕りにしたことも。これはメロい女性の予感がします。
しかし家族を皆殺しにされ、望まぬ結婚までさせられる悲劇的な運命をたどるとのこと…。そ、そんなことがあっていいのでしょうか……水滸伝を読みたくなってきました。
展示風景
クセの強い外見や独特のポーズで描き出される英雄たちは、水滸伝を知らない人が見ても面白いのが凄いところ。むしろ、水滸伝を知らない人は先入観なく楽しめるかもしれません。
