具体的な解決策を提示する「空気の読めない男」
稲田さんとは何者なのか。その問いに一言で答えるなら「常に料理人」だと本人は答えます。本が15冊を超えたあたりから文筆家も名乗り始めましたが、軸足は料理人から動かさないようにしているとのこと。
料理人という仕事は、常に追われています。お客様のペースがベースになるから、マイペースが許されません。最短距離、最小コストでベストパフォーマンスを目指すことを常に意識せざるを得ないといいます。制約でがんじがらめになりながら、結果的にベストなパフォーマンスが出てくるのが料理人なのです。ただ稲田さん本人は、その制約をゲームとして捉えているといいます。
「ゲームはルール厳しい方が面白いよねみたいな感じで楽しめるし」
そんな稲田さんのスタイルは、レシピ本でも独特です。料理家と呼ばれる人たちの多くが「寄り添うこと」を仕事と捉えているのに対し、稲田さんには違和感がありました。
「僕がレシピ本でやってることは、愚痴に対して具体的な解決策を提示する空気の読めない男みたいなことを多分やってるから」
これは自己批判ではありません。向かっている方向は同じでも、アプローチが違うという話です。共感や励ましより、「自分だったらこうやるのがベスト」という考え方の提示をする。それが稲田さんのやり方です。
「今後とも具体的な解決策を提示してまいります」
次にやりたいのは「段取りの本」家庭料理が楽にならない理由
今後の野望を聞くと、新しい店や出したい本が盛りだくさんとのこと。そのなかでも近々取り組みたいとして挙げたのが「段取りの本」でした。
プロの料理人が当たり前にやっていることが、家庭に伝わっていない。その最たるものが段取りだといいます。たとえば、プロはボウルやバットをどんどん使います。使ったらその場ですぐ洗ってひっくり返す。だからシンクは常に空に近い状態です。ところが家庭の多くの人はそれを知らないから、洗い物が溜まる情景を想像して道具を使うのを避けてしまう。
「その洗い方にしても、洗い物の振り分け方、両手の使い方みたいな部分で、我々がものすごく当たり前だと思って、それによって作業が圧倒的に楽になっていることが、実は知られていないから」
さらに料理中の両手の使い方も同様です。右手は乾燥した状態をキープし、食材や水に触れるのは左手だけ。それが当たり前のプロと、両手で食材を触って洗い物を増やしてしまう家庭の間には、大きな溝がある。その溝を埋めることができれば、家庭料理は劇的に変わると稲田さんは言います。
「難しいけど、それを考えるのが楽しいんです」
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第80回・第81回(6月5日・12日配信) 稲田俊輔さん
料理人・文筆家/南インド料理専門店エリックサウスでは総料理長を務める他、様々なジャンルの飲食店をプロデュース。レシピ本を始め、エッセイ、小説など食にまつわる著作も多数。近著は『稲田俊輔のおそうざい十二ヶ月』(暮しの手帖社)、『東西の味』(集英社)
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クックパッド株式会社 小竹 貴子
料理愛好家・ 料理の楽しみ共創室 部長/創業期から参画し、初代編集長としてメディアづくりに携わる。現在は、料理家や生産者といった食のつくり手の声を届ける活動を行っている。「日経ウーマンオブザイヤー2010」受賞。プロの技術や食材の背景にある物語を、暮らしに馴染む言葉で伝えることをライフワークに、生活者の目線で食の楽しさを探求している。
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