東京タワー145mのガラス床は赤ちゃんも怖がる? 私たちが生まれつき持っている不思議な能力|山口真美

東京タワー145mのガラス床は赤ちゃんも怖がる? 私たちが生まれつき持っている不思議な能力|山口真美

自分の家の中で迷ってしまう——ウィリアムズ症候群

脳の話に移りましょう。

ここまで見てきたように、空間に沿って身体を動かすことは、生まれたての赤ちゃんでもできることがわかりました。一方で形を見る能力は、視力に代表されるように、徐々に発達します。

見ることは同じでも、空間を見ることと、形を見ることは、脳の別のルートが使われるのです。空間と動きにかかわる視覚は、運動を制御する頭頂葉へ、形と色は側頭葉へと進みます。そして空間にかかわる見方は生きる上で必須であることから、形にかかわる見方よりも先に発達するのです。

脳の図
背側経路と腹側経路:視覚情報は一次視覚野に入った後、下部の側頭皮質へと続く腹側経路と、上部の頭頂部にあたる後部頭頂皮質へと続く背側経路の二つの経路に分かれる。この二つの経路は、発達の順番や発達途上での壊れやすさに違いがある。
(山口真美『発達障害の素顔 脳の発達と視覚形成からのアプローチ』、ブルーバックス、2016年、より)

しかし空間や動きを見る能力は、形を見る能力と比べ、発達中に壊れやすいといわれています。空間認識能力だけが障害を受けることを示す発達障害の事例があります。染色体異常が原因で1~2万人に1人の確率で起こるウィリアムズ症候群は、コミュニケーションや聴覚の能力の高さと空間認識能力の低さのギャップという、独特な認知機能の特徴があります。お喋りで言語能力と対人スキルに長け、音感とリズム感に優れていて、一度聴いた音楽を正確に再現できます。その一方で、自分の家の中でも迷うほど空間認識能力が極端に低いのです。空間認識能力の欠損が、この世界を自由に動き回って生きる上で大きな障害となることは想像に難くありません。なんとも皮肉でやっかいな、人の発達の仕組みを示しています。

大きなイチゴは、近くに見える?

最後に、デジタル絵本『いっしょにみるこちゃん』に登場する、大きなイチゴと小さなスイカにもかかわる実験を紹介しましょう。

デジタル絵本『いっしょにみるこちゃん』p.80~83より

これは、手前にあるものは大きく、遠くにあるものは小さく見える見方とかかわっています。ヨナスによる、赤ちゃんを対象とした実験を説明しましょう。

赤ちゃんにとってなじみのある顔を使った実験で、大きい顔写真と小さい顔写真を並べて見せます。すると、生後7か月の赤ちゃんは、大きい顔の方を近くにあると感じて手を伸ばしました。つまり赤ちゃんには、大きい顔を近くにあるように、小さい顔は遠くにあるように見えたのです。なお実験では、片目にパッチをあてて見るようにしています。片目だと両眼立体視を使わなくなるので、大きさと距離の関係がより見えやすくなるのです。

では、絵本の中のイチゴとスイカは、赤ちゃんにどう見えるのでしょうか。小さいはずのイチゴが大きかったら手前に、大きいはずのスイカが小さかったら遠くに見えるでしょうか。赤ちゃんと試してみませんか?

ヨナスといっしょに野菜や果物の大きさと距離を当てるゲームをアメリカの視覚学会(Vision Sciences Society)で行った。2024年5月

本来は大きさの違う野菜や果物を同じ大きさの写真にして並べています。同じ距離に置かれているはずなのに、スイカは、トマトよりも遠くに見えませんか?

これは、両眼立体視が使えない写真や絵本で見るときに起こる錯覚です。

両眼立体視を使わずに、大きさの違いで距離を測るためこのような錯覚が生まれています。

実験では片目をつぶり、野菜に手を伸ばしてもらいます。

予想外に近かったり遠かったりすることを体験してもらうのです。

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隔週金曜日に更新中!

次回は、「大人と赤ちゃんの“見え方”の違い」というテーマでお話ししていきます。

山口真美氏による監修のもと、赤ちゃんの「好き!」を詰め込んだ全140ページのデジタル絵本『いっしょにみるこちゃん』も好評発売中です。

配信元: 幻冬舎plus

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