マッチングアプリとじょふう|佐藤友美

マッチングアプリとじょふう|佐藤友美

みんなの「きち」を知ってるかい?

まあね、独身だからね。別にやましいところはないのだけれど、でもまあバレちゃったし、ウィキペディアには離婚歴2回って書かれているし、「ごめん。ちょっとアプリがどんな感じか知りたくて使ってみた。今すぐ誰かと付き合いたいとかは、ない」と、正直に話した。

そのあとは、好きな漫画の話とか映画の話とかして、清廉潔白解散した。
もう二度と会うこともないんだろうなと思ったら、ちょっともったいないような気がしてくるから現金だ。
なんだかんだで、久しぶりに女子扱いされたのが嬉しかったからかな。いい人だったなあ、などと考えながら帰路についた。

その彼とは、なぜか現在、飲み友達である。

時々ふらっと会って、生ビールをぐいーっと飲みながら、付き合っている女の子の話を聞いたり、仕事の話を聞いたりしている。
先日などは、フリーランスになりたいという彼の友人と3人で飲んで、確定申告の仕組みなどを教えてあげた。
毎回、律儀にご馳走してくれる。どこで調べたのか、私のビジネスパーソン向けのライティング講座の動画を買ってくれ、「めっちゃ勉強になった。仕事に役立ちそう!」と連絡をくれた。

不思議な感じだ。

結局、マチアプは削除した。なので、出会ったのは、その14歳年下の彼だけということになる。
楽しい飲み友達が一人できただけでも、試した甲斐があった。取材には……なったのか?

時は流れて、まあまあ最近のこと。
再び、似たような女子会があった。またしても初対面の人がほとんどで、私は最年長である。

その日も何かのタイミングでみんなのプライベートな話になった。とくに胸をはって披露できるような逸話のない私は、肉とワインをもくもくと自腹に流し込み、みんなの話を聞いていた。

だいぶ酔いが回ってきた頃、会話の中に「きち」という言葉が出てきた。

「最近、きち、チェックしてる?」
「いや、最近は全然」
「私もしばらく行ってないなあ」
「きちだったら、私、おすすめいるけど」
「え、教えて教えて」

私以外のみんなは「きち」が何かをわかって会話しているようだ。こういう時、知らないことを知らないままにできないのがライターの性(さが)だと思う。

「あの~」

私は取材の時に質問をする時のように、ゆっくりすーっと手をあげる。全員の視線が私に集まった。

「きち、って何?」

尋ねた私に、隣の女の子が教えてくれる。
「あ、すみません、じょふうです」

じょふう???
除風?
助風?
JO-FU?

ぽかんとしている私に、彼女は言った。
「さとゆみさん、もしかして、じょふう知らないですか?」

じょふうとは「女性用風俗」の略で、「きち」とは、その草分け的な存在である「東京秘密基地」のことだと、ケータイを開きながら教えてくれた。
サイトには、セラピストという肩書きのメンズがずらり並んでいる。本日の出勤人数は109人。みんな勝手知ったるふうで、◯◯くんのプロフィールが面白いとか、△△くんもいいよねなどと話している。

「さとゆみさん、ライターだし、エッセイも書くんですよね? 性のことは女性にとって重要な問題だし、女風、知っといたほうがいいんじゃないですか?」
と言われ、ハッとなった。

なんか……デジャヴ感ある。
私、また、チコちゃんに怒られてる……?

女風、そんなにメジャーなのか。
私はそれを、知っておいたほうがいいのか。いやむしろ、物書きとして知らないほうがまずい……のか? 法的にはどんな扱いなのだろう。

またひとつ、宿題が増えた。

さとゆみの明日は、どっちだ!?

続く(かもしれない)

配信元: 幻冬舎plus

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