夏の発熱は「感染症」が原因の場合も
「ウイルス感染は冬だけ」? コロナ以降で覆された過去の “常識”
夏に発熱を起こし、熱中症と間違われやすい感染症に特別なものはありません。インフルエンザ、肺炎、尿路感染症、腸炎、胆のうや胆管の感染症――。よくある感染症のほとんどが、夏でも冬でも起こります。
以前は、ウイルスは乾燥した環境で感染しやすいと考えられてきたため、「ウイルス感染症は冬の病気」というイメージが強いものでした。ところが新型コロナウイルスの蔓延(パンデミック)があって以降、その“常識”は覆されました。実際、新型コロナウイルス感染症を筆頭に、感染症は夏でも冬でも同じように生じています。夏だからといって油断はできません。
また、こうした感染症は年齢や持病の有無にかかわらず誰もがかかり得ます。そのため、特に注意が必要とされる高齢者や、「ハイリスク群」と呼ばれる層(糖尿病、高血圧、免疫不全、肥満、喫煙者、慢性呼吸器疾患など)のみが気をつければよいものではありません。若く健康な人でも、咳、発熱、倦怠感、息苦しさといった症状が急に強くなってきた場合は、「大丈夫だろう」と楽観視せず早めの受診を心がけましょう。
熱中症と感染症を見極める方法は?
夏は、外で急に倒れた、動けなくなったなどの「熱中症疑い」で救急に来る人が増えます。しかし、そのうち一部の患者さんは、実際には感染症が原因だったり、熱中症と感染症が合併していたりします。ですから私たちは、いつも両方の可能性を考えながら患者さんを診ています。
救急現場で両者の見極めにおいて大事になるのは、大きく以下の3つです。
倒れる前に何か症状があったか
だるさや微熱、咳、のどの痛みが数日前から続いていて、いよいよ動けなくなった――という経過であれば、その日の環境変化で急に熱が出たのではなさそうだと考えます。このような症状の長さ・種類の多さは、感染症を疑うサインになります。
熱中症になりやすい環境にいたか
昼間に長時間屋外にいた、冷房のついていない/十分に効いていない部屋で倒れていた、という環境下にいたのであれば、熱中症の可能性が高く、そうでなければ感染症の可能性もあると判断します。
特定の持病や常用薬があるか
血圧の薬や精神科の薬、アレルギー薬の一部には、汗が出にくくなる副作用が出るものがあります。汗をかけないと体温を下げられず、熱中症になりやすくなります。患者さんの持病や服用中の薬を確認することは、発熱の原因の見極めに欠かせません。
ここまでは、熱中症の注意点や、感染症との見分け方のポイントを紹介してきました。次項からは救急医の目線で、熱中症・感染症のどちらであっても見逃してはいけない「重症のサイン」について解説します。
救急医が必ず確認する「危険な発熱の5つのサイン」
熱中症であっても、感染症であっても、重症化すると命に危険が及ぶことに違いはありません。では、発熱があったとき、どんな兆候が見られたら救急を受診すべきでしょうか。ここでは、私が患者さんを診るときに確認する「5つのサイン」を紹介します。1つでも当てはまる場合、すみやかな救急受診を推奨します。
呼吸のサイン…息苦しくて動けない、顔色が青ざめている、呼吸回数が1分あたり20回超。
血圧のサイン…血圧が低下する、ふらつく、立てない・歩けない。
食欲のサイン…食べられない、食べる元気がない。
神経のサイン…頭痛、意識がもうろうとしている、会話がうまくできない。
皮膚のサイン…手足に発疹が出る、変色している、皮膚が激しく痛む。
このほか、様子見をしないでほしいもう1つのケースが「孤発性(こはつせい)」の発熱です。まわりに同じ症状の人がいないのに、1人だけ40℃超の高熱が出たり具合が悪くなったりしたときは、年齢や持病にかかわらず早急な受診を検討してください。
子どもの場合「普段と違う」を見逃さないで
子どもはもともと脈拍や呼吸が大人に比べて速いので、先述した「呼吸のサイン」や「血圧のサイン」による数字だけでは判断しにくいことがあります。一方で、顔色が悪い、ふらついて歩けないというその他の症状は大人と同じく表れる「危険なサイン」です。
いつもは走り回って笑っている子が、今日はぐったりして機嫌が悪い――。「いつもと違う」「やけに大人しい」と感じたときは、様子を見ずに病院を受診してください。親御さんの直感は、ご本人が想像する以上に鋭く、重要です。
「様子を見てよい」発熱もある?
これまで述べてきたように「危険な発熱」は見逃せない症状ですが、家で様子を見てよい場合もあります。
たとえば、年齢が若く持病もない成人で、「家族や子どもの保育園・学校で同じ症状の病気が流行っていて、自分もまったく同じ症状」「風邪症状を伴うものの、食欲や歩行、会話に問題はない」といった場合、一般的なウイルス性の風邪であれば、自宅で安静にしているほうが体に負担がかからないケースもあります。
ただし、注意しておきたいのは、上記に当てはまる場合でも高齢者やハイリスク群の様子見は危険ということです。特に新型コロナウイルス感染症による発熱の場合は重症化する可能性があるため、早めの受診や検査を検討してください。また、発熱したばかりの初期にみられる症状だけでは、新型コロナウイルス感染症と一般的なウイルス性の風邪とを見分けるのは難しいことがあります。心配な症状があるときはためらわず、医療機関を受診してください。
「食べられない、歩けない、しゃべれない」は体のSOS
急な発熱や体調不良に直面したら、ぜひ自分自身に問いかけてほしいことがあります。それは、以下の3点です。
・食事は取れるか
・一人で歩けるか
・言葉をしゃべれるか
この3つのいずれか1つ以上が「NO」であった場合、迷わず医療機関を受診してください。
高齢者・ハイリスク層は「早めの受診」を最優先に
ここまで紹介した「危険な発熱の5つのサイン」と「3つのSOS」に当てはまらない場合でも、早期受診を徹底してもらいたいケースがあります。それは、高齢者や基礎疾患のある人(ハイリスク群)です。こうした人たちは通常の人に比べて重症化しやすいため、ご本人や周囲が「いつもと違う」と感じた時点で、早めに受診・相談することをおすすめします。早い段階で受診できれば、抗ウイルス薬をはじめとする治療の選択肢を医師と検討しやすくなります。
かつて新型コロナウイルスの流行初期は「熱があったら、まず家で様子を見ましょう」と言われていました。特に2020~21年頃のパンデミックの最中は医療資源が足りず、そう伝えざるを得ない事情もあったからです。ただ、それを律儀に守った結果、受診が遅れてしまった人もいたのが事実です。万が一受診が遅れた場合、上述した抗ウイルス薬の中には処方ができなくなるものもあり、受診が遅れると選べる治療が限られてしまうことがあります。ご自身で治療の選択肢を狭めてしまわないためにも、危ないサインがあれば、「熱が出てから何日目か」を問わずに受診してほしいと思います。それが、感染症や危険な発熱からあなたを守る大切な目安になります。

