血友病は「男性の病気」と受け止められがちな出血性の病気です。しかし、原因となる遺伝子を受け継いだ女性(保因者)にも、過多月経(月経の出血量が多い状態)やアザのできやすさといった症状が表れることがあります。こうした症状は「体質」と見過ごされ、診断につながりにくいのが現状です。サノフィが2026年6月に東京都内で開催したメディアセミナー「その生理のつらさ、普通じゃないかも―過多月経を通じて知る、女性の血友病」のトークセッションでは、当事者と医師が、女性の出血性疾患の見過ごされやすさを語り合いました。内容を座談会形式で再構成してお届けします。
天野 景裕(あまの かげひろ)(東京医科大学 臨床検査医学分野 教授)
1988年 東京医科大学 卒業東京医科大学病院 臨床病理科 臨床研究助手、米国ミシガン大学留学、東京医科大学病院 臨床検査医学科 准教授などを経て2012年から現職。同院卒後臨床研修センター 副センター長、生涯教育センター センター長などを併任。
認定医・専門医:日本臨床検査医学会認定臨床検査専門医、日本血栓止血学会 認定医、日本輸血・細胞治療学会 認定医、日本性感染症学会 認定医、日本エイズ学会 認定医・指導医、日本救急医学会認定ICLSワークショップ・コースディレクター、日本内科学会JMECCインストラクター
長尾 梓(ながお あずさ) (関西医科大学附属病院 血液腫瘍内科 診療講師)
2009年 信州大学医学部医学科卒業荻窪病院, 血液凝固科を経て2025年から現職。
認定医・専門医:日本血栓止血学会, 認定医・評議員・血友病部会・VWD/TMA部会副部長・血液凝固異常症レジストリ委員会副委員長・血友病診療連携委員会地域中核病院代表、日本内科学会, 認定医・総合内科専門医、日本エイズ学会, 認定医・指導医、臨床研究適正評価教育機構 J-Clear評議員、難病指定医, 小児慢性特定疾病指定医、身体障害者福祉法第15条(肢体不自由, ヒト免疫不全ウイルスによる免疫機能障害)指定医
上村 理絵(かみむら りえ)(北海道ヘモフィリア(血友病)友の会 理事/血友病保因者)
保因者14人の声が映す「気づけなかった」現実
天野先生
今日はまず、保因者の上村さんが、保因者同士のネットワークでとったアンケートを紹介してくれます。
上村氏
お届けしたいのは、保因者の女性14人の声です。症状を「体質だから」と我慢していた人が93%、家族の診断で初めて保因者と分かった人が64%、症状があっても受診しなかった人が67%でした。「自分の体のことなのに、自分が知らされていなかった」――この言葉が出発点です。14人のうち9人は、息子や兄弟の診断がきっかけでした。自分の体調から分かった人は1人だけです。診断された年齢の中央値(順番に並べたとき真ん中にあたる人の年齢)は29歳。初潮から長い間、変だと思っても病院につながっていなかったことになります。
天野先生
症状があっても、そこで止まってしまう。何が壁になっていると思いますか。
上村氏
保因者の母親は、自分を「血友病の子の母」として見ています。子どもの治療は熱心に考えても、自分のことは後回しです。支える側という意識が強いのだと思います。母も妹も月経が重く、「これが普通」と思い込んでもいました。加えて、「知るのが怖い」という気持ちもあります。自分の遺伝子が子どもに伝わったと知るのが怖い、という声もありました。
天野先生
上村さん自身はどうでしたか。
上村氏
過多月経で婦人科には行きました。ただ、血友病や保因者という言葉は一度も聞かず、「痛み止めで様子を見ましょう」「子宮がんの検査をしましょう」という対応でした。息子を産むまで、血友病という名前すら知りませんでした。
当事者からは、こんな声も寄せられました。
・主治医から、月経時におむつをする人がいると聞いたとき、自分も同じだと思った。40代後半まで普通だと思っていた
・貧血と気づかず毎日部活で走り、持久力がないと落ち込んでいた
・出産時の大出血で、初めて疑った
子宮筋腫のためと思い込み、保因者とは考えなかった人もいました。14人のうち12人が妊娠・出産を経験し、6人以上は保因者と知らないまま産んでいました。「もっと早く知りたかった」と答えた人は、回答した13人のうち9人にのぼります。
なぜ女性の出血症状は見過ごされるのか
天野先生
長尾先生、医療側から見てどうでしょうか。
長尾先生
医療者の間でも、血友病は男性の病気だと思われがちです。月経の量は人と比べないので、多くても気づけません。フォンヴィレブランド病(止血に関わるタンパク質の異常で出血しやすくなる病気)などでは、症状が軽く見えることもあります。アザが多い、歯磨きで血がにじむ、鼻血が出る――日常に紛れてしまい、婦人科で完結しやすいのです。家族歴がはっきりしないと、保因者は気づかれにくいままです。

