高齢者が高齢の家族を介護する「老老介護」が増えています。2025年には団塊の世代が75歳以上となり、通院の付き添いや服薬管理、夜間対応などが高齢の介護者に重くのしかかります。介護者自身の不眠や疲労、社会的孤立も在宅生活を揺るがす要因です。こうした家庭を支える選択肢が訪問診療で、医師が計画的・定期的に自宅を訪れ、診察や処方調整、全身管理、緊急時の対応方針づくりまで担い、家族の付き添い負担や孤立も和らげます。相談は通院が難しくなる前が理想で、要介護認定を受けたときや、介護される側が入院したときが1つの目安です。医療法人社団貞栄会の内田貞輔先生に詳しく聞きました。
※2026年6月取材。

監修医師:
内田 貞輔(医療法人社団貞栄会)
2015年、32歳で静岡市に静岡ホームクリニックを開院。翌年、医療法人社団貞栄会を設立し理事長に就任後、東京・千葉・名古屋・横浜にもクリニックを開設。著書に、『家族のための在宅医療読本』など。医学博士。日本在宅医療連合学会評議員・在宅専門医・指導医、日本プライマリ・ケア連合学会認定医・指導医、日本リウマチ学会リウマチ専門医・指導医、日本アレルギー学会アレルギー専門医、日本内科学会総合内科専門医、日本緩和医療学会緩和医療認定医、日本抗加齢医学会専門医、難病指定医師、肢体不自由指定医師。
老老介護ではどんな在宅の困りごとが増える?
編集部
老老介護とは、どのような状況を指すのでしょうか?
内田先生
老老介護とは、高齢の人が高齢の家族を介護している状態を指します。内閣府が発表している高齢社会白書では、要介護者等と同居する主な介護者の多くが60歳以上であり、いわゆる老老介護が相当数存在すると報告されています。特に2025年は団塊の世代が75歳以上となる節目であり、超高齢化社会の到来によって医療や介護に深刻な影響が及んでいるとされています。
編集部
老老介護では、どのような在宅の困りごとが増えやすいのでしょうか?
内田先生
まずは、通院や服薬管理、食事、排せつなどを高齢の介護者が担わなければならないことです。特に、介護者自身に持病や体力低下があると、受診の付き添いや夜間対応が大きな負担になりかねません。
編集部
具体的に、どんな困りごとがありますか?
内田先生
在宅での介護というと、介護される側の病状に目が向きがちですが、実は、介護者側の健康状態も重要な要素です。たとえば介護者に不眠、疲労、食欲低下が見られたり、抑うつや社会的孤立が進んだりすると、在宅生活そのものが維持しにくくなります。特に、介護に追われて外部との交流が減り、悩みや愚痴を相談できる相手がいなくなることで、介護者の孤立が進み、ますます介護疲れがひどくなるということも少なくありません。
編集部
介護する側にも大きな負担が及ぶのですね。
内田先生
はい、それから気をつけたいのは「認認介護」の問題です。これは介護者・被介護者ともに認知症を発症している状態のことです。判断力や体力が低下しており、内服薬の管理ミスや火の不始末、栄養失調、金銭管理の不備など、諸問題が日常的に起こりやすくなります。
訪問診療でできること
編集部
そもそも訪問診療とは、どのような医療なのでしょうか?
内田先生
訪問診療は、病気や障害などで通院が困難な人に対して、医師が患者さんの同意のもと、計画的な医学管理に基づいて定期的に自宅や施設を訪問して行う診療のことをいいます。往診と訪問診療は混同されることもあるのですが、訪問診療はあらかじめ計画を立てて、継続的に24時間体制で対応するもの。往診は、そのとき1回限りの診察を指します。高齢で通院負担が大きい老老介護の家庭では、在宅生活を支える重要な選択肢になります。
編集部
訪問診療では、具体的にどんなことができますか?
内田先生
訪問診療では、定期的な診察、処方調整、血圧や呼吸状態などの全身管理、認知症や慢性疾患の経過観察、療養方針の相談などを行うことができます。それから必要があれば、訪問看護や介護サービスと連携し、緊急時の対応方針を整えることもできます。老老介護のご家庭がこうしたサービスを活用すれば介護者の負担が減り、介護の質を向上させることが期待できると思います。
編集部
訪問診療は、本人だけでなく家族にもメリットがあるのですね。
内田先生
はい、大きなメリットがあります。訪問診療を利用すれば受診のたびの移動や付き添いの負担が減り、介護者が体力的・精神的に追い込まれにくくなります。また、医師に自宅の生活環境を見てもらえるため、介護上の困りごとや今後の見通しを相談しやすくなるというのもメリットです。介護者支援の観点でも、介護者の負担軽減と孤立防止は重要であり、訪問診療はその支えの1つになるはずです。
編集部
急に具合が悪くなったときも対応してもらえるのでしょうか?
内田先生
医療機関によりますが、在宅療養支援診療所や病院の体制が整っていれば、24時間の連絡体制や往診体制、訪問看護との連携、必要時の緊急入院体制が確保されています。特に老老介護では夜間や休日の不安が大きいことが多いため、このような安心感は非常に重要だと言えるでしょう。

