糖尿病というと肥満男性に多いイメージがありますが、実は閉経後の女性も発症リスクが高まります。その理由は、女性ホルモンにあります。女性ホルモンが減少すると、なぜ糖尿病を発症しやすくなるのか、西小山とうや内科・糖尿病循環器クリニック院長の東谷先生に聞きました。
※2026年7月取材。

監修医師:
東谷 紀和子(西小山とうや内科・糖尿病循環器クリニック)
2004年に東京女子医科大学医学部を卒業。東京医療センター、横浜新緑総合病院、渋谷済生クリニックなどで糖尿病代謝外来の非常勤を経て、西小山とうや内科・糖尿病循環器クリニックを開院し、院長を務める。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。
「糖尿病は女性ホルモンがカギ」といわれるのはなぜ?
編集部
糖尿病と女性ホルモンには、どのような関係があるのでしょうか?
東谷先生
女性ホルモンの一つであるエストロゲンは、インスリンの働きを高め、血糖値の低下を支えています。そのため、閉経に向かってエストロゲンの分泌が減ると、インスリンが効きにくくなり、同じ食事量でも血糖値が上がりやすくなることがあります。「閉経前後の女性は糖尿病リスクが高い」といわれるのは、エストロゲンの減少が影響しているためです。
ただし、エストロゲンの分泌量が低下すると必ず糖尿病になるというわけではなく、体重増加や運動不足なども深く関係しています。
編集部
そのほか、閉経後に血糖値が高くなる理由はありますか?
東谷先生
エストロゲンには内臓脂肪を代謝させてつきづらくする働きがあります。そのため、閉経後にエストロゲンの分泌が減ると、若いころは主に皮下脂肪がついていた人でも、内臓脂肪が増えやすくなることが少なくありません。内臓脂肪が増えるとインスリンが効きにくくなり、血糖値が下がりにくくなってしまいます。
また、エストロゲンは筋肉量の維持や食欲の抑制にもかかわっています。更年期になってエストロゲンの分泌量が低下すると筋肉量が減って基礎代謝が低下し、太りやすくなります。
編集部
「更年期の不調かと思ったら、実は糖尿病の初期症状だった」ということもあるのでしょうか?
東谷先生
そのようなことも考えられます。更年期には、疲れやすい、眠れない、気分が落ち込む、のぼせる、動悸(どうき)がするなどの症状が表れることもあります。一方、糖尿病でも疲れやすさ、口の渇き、尿の回数の増加、体重減少などが見られることがあります。つまり、更年期だから仕方ないと思っている症状の背景に、高血糖が隠れていることもあるのです。体調の変化が続く場合は、婦人科だけでなく糖尿病を扱う医療機関も受診し、血糖値やHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー/過去1〜2カ月の血糖値の平均的な状態を反映する数値)を確認することも大切です。
編集部
女性ホルモンを補えば、糖尿病は予防できますか?
東谷先生
ホルモン補充療法は、更年期症状や閉経後の骨粗しょう症などに対して検討される治療であり、糖尿病予防を目的に行うものではありません。確かに、女性ホルモンを補充すると血糖や脂質によい影響が見られる場合もありますが、ホルモン補充療法を行うことで血栓症のリスクが高まることもあります。また、長期にわたって補充療法を継続すれば、乳がんなどのリスクが上昇するともいわれています。気になる場合は、婦人科医や糖尿病に詳しい医師に相談することをおすすめします。
生活習慣の変化やストレスとの関係性
編集部
閉経後に起こる生活習慣の変化も糖尿病に関係しますか?
東谷先生
はい、影響します。閉経前後は、仕事、家事、介護、子どもの独立など、生活環境が大きく変わりやすい時期です。また、更年期に伴う体調不良や精神的なストレスから、運動量が減ったり、睡眠不足が続いたりすることもあります。その結果、血糖値が上がりやすくなります。
編集部
ストレスも血糖値に影響するのでしょうか?
東谷先生
はい。ストレスが強い状態では、血糖値を上げるホルモンが分泌されやすくなります。さらに、ストレスがきっかけで甘いものを食べる、夜遅くに食事をする、飲酒量が増える、眠りが浅くなるといった変化につながることもあります。つまり、ストレスそのものに加えて、ストレスに伴う生活習慣の乱れが血糖コントロールを悪化させます。
編集部
閉経後に太りやすくなることも、糖尿病と関係しますか?
東谷先生
大いに関係します。特に、年齢とともに筋肉量が減ることは血糖上昇の一因です。筋肉は血糖を取り込む大切な場所なので、筋肉量の低下は糖代謝にも影響します。注意したいのは、見た目の体型だけでは判断できないということです。日本人は欧米人に比べて、軽度の肥満でも糖尿病を発症しやすいとされているため、「それほど太っていないから大丈夫」とは言い切れません。
編集部
そのほか、閉経後の女性が気を付けるべきことがあれば教えてください。
東谷先生
睡眠不足や睡眠の質の低下にも注意が必要です。更年期には、ほてり、発汗、動悸、不安感などで眠りが浅くなる人も少なくありません。睡眠と肥満の関係は強く指摘されており、睡眠の質が下がると、食欲増進ホルモン(グレリン)が増え、食欲を抑えるホルモン(レプチン)が減り、肥満リスクが高まることが分かっています。血糖管理というと食事や運動に目が向きがちですが、睡眠も大切な生活習慣の一つです。眠れない状態が続く場合は、我慢せず医療機関で相談しましょう。

