長引く腰痛や神経痛に「痛み止めを飲むしかない」と思っている人は少なくありません。そうした痛みの治療選択肢の一つが、神経ブロック注射です。痛みの原因となる神経やその周囲に局所麻酔薬などを投与する治療で、原因に直接作用するため即効性が高く、単なる痛み止めではなく「痛みの悪循環」を断ち切る目的でも行われます。硬膜外ブロックや神経根ブロックなど種類はさまざまで、症状に応じて使い分けられます。多くは外来で行え負担も比較的少なく、近年はエコーで確認しながら行う方法が普及し安全性も向上しています。恵比寿いたみと内科のクリニックの加藤類先生に、神経ブロック注射の基本や種類、注意点について聞きました。
※2026年5月取材。

監修医師:
加藤 類(恵比寿いたみと内科のクリニック)
九州大学を卒業後、福岡赤十字病院、九州大学病院、北海道大学病院、砂川市立病院、北海道大学病院麻酔科助教、菊名記念病院麻酔科部長、東京医療センター、国立国際医療研究センター病院麻酔科医長、済生会中央病院麻酔科部長などで経験を積みながら、ペインクリニックの外来や緩和ケアや無痛分娩にも携わる。 2024年、東京都渋谷区に「恵比寿いたみと内科のクリニック」を開院、院長となる。 医学博士、日本ペインクリニック学会ペインクリニック専門医、日本麻酔科学会麻酔科専門医・指導医、日本心臓血管麻酔学会心臓血管麻酔専門医、JB-POT。
痛みの治療とは ペインクリニック内科で行う治療
編集部
痛みに対しては、どのような治療を行うのでしょうか?
加藤先生
痛みの原因や強さによって治療法は異なります。まずはアセトアミノフェンやNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)などの一般的な鎮痛薬を使用する傾向にあります。それでも痛みが取れない場合は、オピオイド系鎮痛薬(医療用麻薬を含む鎮痛薬)を使用するケースもあります。ただし、慢性的な痛みでは薬物療法だけで十分な改善が得られないケースも少なくありません。強い痛みが長引くと、筋肉の緊張や活動性の低下、血流障害、神経過敏などが重なり、「痛みが痛みを呼ぶ状態」に陥るケースがあります。
編集部
痛みの悪循環に陥ってしまっても、治療は可能ですか?
加藤先生
可能です。ただしアプローチが異なります。慢性疼痛は神経の過敏化や中枢性感作(脳や脊髄の神経が過敏になる現象)など、神経機能の変調が関わる多因子的な病態と考えられています。そのため、ペインクリニック内科では薬物療法だけでなく、神経ブロック、高周波パルス療法、低出力レーザー治療などを組み合わせながら多角的な治療を行う場合があります。
編集部
高周波パルス療法とは、どのような治療ですか?
加藤先生
特殊な針を用いて、痛みの原因となっている神経周囲に高周波電流を流す治療です。神経を熱で傷つけることのない42℃以下の温度で、微弱な電気の刺激を与えます。これにより、神経の過敏な状態を落ち着かせ、痛みのサイン(信号)が伝わるのをブロックして、痛みを和らげる効果を狙います。慢性的なしびれや神経障害性疼痛などで行う場合があり、神経ブロックと組み合わせて行います。
編集部
低出力レーザー治療についても教えてください。
加藤先生
近赤外線レーザーを筋肉や関節、神経周囲などに照射する治療です。血流改善や炎症軽減、組織修復促進などが期待されており、慢性的な筋緊張や神経痛に対して行います。近年の研究では、照射されたレーザー光が細胞内のミトコンドリア(シトクロムcオキシダーゼなど)に吸収され、エネルギー代謝の源であるATP(アデノシン三リン酸)の産生を活性化させて傷ついた組織の修復プロセスを早める作用なども解明されつつあります。注射を使用しないため身体への負担が少なく、神経ブロックと併用するケースもあります。
編集部
ほかに、知っておいたほうがよいことはありますか?
加藤先生
神経ブロック注射をはじめ、高周波パルス療法や低出力レーザー治療などは、病気や症状、治療内容によって保険適用となる場合と、自費診療となる場合があります。適応となるかどうかは患者さんによって異なりますので、どのような治療が選択できるのか、費用も含めて事前に医療機関へ確認しておくと安心でしょう。
神経ブロック注射の種類
編集部
神経ブロック注射とは、どのような治療なのでしょうか?
加藤先生
痛みの原因となっている神経やその周囲に局所麻酔薬などを投与し、痛みを和らげる治療です。神経ブロックの大きなメリットの一つが、痛みを伝える信号を直接遮断して得られる即効性の高さです。内服薬のように全身を巡って効果が表れるのを待たず、原因となる神経にダイレクトに作用するため、比較的短時間で痛みの緩和を実感しやすい点が特徴です。強い痛みが続くと交感神経が緊張し、血流低下や筋緊張が持続します。その結果、「痛いから動けない→動かないためさらに悪化する」という悪循環に陥りやすくなります。
また前述の通り、慢性的な痛みでは神経そのものが過敏化し、わずかな刺激でも強い痛みとして感じる場合があります。しかし神経ブロックは、過敏になった神経を一時的に落ち着かせ、慢性疼痛化を防ぐ役割も期待されています。単なる対症療法的な「痛み止めの注射」ではなく、神経の異常興奮や炎症を抑え、過敏になった神経を落ち着かせ、「痛みの悪循環」を断ち切る目的で行います。
神経ブロックには、星状神経節ブロック、硬膜外ブロック、神経根ブロック、関節周囲ブロック、筋膜ブロックなど、さまざまな種類があります。それぞれの特徴について、ここから詳しく説明します。
編集部
星状神経節ブロックとは、どのような治療ですか?
加藤先生
首の根元、鎖骨の上あたりにある「星状神経節」という交感神経(自律神経)に作用する治療です。慢性的な痛みでは、自律神経の過緊張によって血流低下や痛覚過敏が生じ、症状を悪化させる場合があります。星状神経節ブロックは、交感神経の緊張を緩和し、血流改善や神経過敏の抑制を図る治療です。首や肩、腕の痛みだけでなく、頭痛、顔面痛、帯状疱疹後神経痛などに対して行う場合があります。
編集部
硬膜外ブロックとは、どのような治療ですか?
加藤先生
脊髄を包む硬膜の外側にある「硬膜外腔」という非常に狭い隙間に薬液を注入する治療です。注入された薬液が脊髄から分岐する複数の神経に広く届くため、比較的広い範囲の炎症や神経過敏を抑えられる点が特徴です。筋筋膜性の腰痛や椎間板ヘルニアによる坐骨神経痛、腰部脊柱管狭窄症の症状などに対して広く行われています。また、交感神経の緊張を緩和する作用もあり、広い領域における血流改善に寄与し、筋緊張や慢性的な疼痛悪循環を改善する効果も期待されます。腰痛や下肢の痛みに対して施行するケースが多い一方で、頚部痛や上肢の症状にも施行されます。
編集部
神経根ブロックとは、どのような治療ですか?
加藤先生
脊髄から枝分かれした特定の神経の根元(神経根)付近に薬液をピンポイントで投与する治療です。頚椎症や椎間板ヘルニアなどによって神経が直接圧迫され、手足の激しい痛みやしびれが出ている場合などに行います。また特定の神経に作用させ、どの神経が症状の原因になっているかを確認する目的で用いる場合もあります。
編集部
関節周囲ブロック・筋膜ブロックについて教えてください。
加藤先生
膝や肩、股関節などの関節痛や、筋膜由来の慢性的な痛みに対して行う治療です。筋肉や靱帯、関節周囲に生じている炎症や緊張を和らげ、痛みやこわばりの改善を目指します。また、筋膜の滑走障害を改善し、関節の動きをスムーズにする効果も期待されます。

