読者プレゼント実施中【取材レポート】挿絵やファッションから物語と出会い直す「おとぎの国のモードをさがして/Fairy Tale MODE」【千葉市美術館】

挿絵から感じる時代のモード—女性をエンパワーメントするファッション

絵:ウォルター・クレイン『シンデレラ』(「ラウトリッジ社の新6ペンス・トイ・ブックス」No.106)絵:ウォルター・クレイン『シンデレラ』(「ラウトリッジ社の新6ペンス・トイ・ブックス」No.106)、1873年、鶴見大学図書館

「ファッションの様式や美意識としての『モード』からおとぎ話を見つめ直すのは、本展ならではの新しい試みです」と話す山下さん。

挿絵に描かれた人物が身につけている衣装は、画家オリジナルのデザインに限らず、同時代の流行や芸術のスタイルが反映されているものがあります。

たとえば、19世紀後半に活躍したウォルター・クレイン(1845〜1915)の『シンデレラ』で、主人公は当時のモードだったバッスル・スタイル(※1)のドレス(上の画像)をまとっています。

クレインが、ファッションの流行を観察し、童話の世界に巧みに取り入れたことがうかがえる作品です。

《ローブ・ア・ラ・フランセーズ》《ローブ・ア・ラ・フランセーズ》1775年頃 神戸ファッション美術館蔵

また、18世紀ロココ時代のヨーロッパで人気を集めた宮廷服は、多くの人が思い描く「お姫様像」を体現したようなデザインです。

《ローブ・ア・ラ・フランセーズ》は、パニエによって横に大きく広がったスカートや、レースなどを使った豪華な装飾が特徴です。

当時、上流階級の女性が着用した典型的な装いであり、「シンデレラ」をはじめ、童話や舞台作品で「王侯貴族の女性像」を象徴するファッションとしても、広く認識されています。

クリスチャン・ディオール《イヴニング・ドレス》1952年春夏クリスチャン・ディオール《イヴニング・ドレス》1952年春夏 文化学園ファッションリソースセンター蔵 撮影:安田如水(文化出版局)

また、『シンデレラ』に関連する作品として、クリスチャン・ディオールの《イヴニング・ドレス》が展示されています。

「シンデレラ」は、貧しい娘が、たまたま幸運をつかんだサクセスストーリーと見られがちです。しかし、物語の本質は、外的要因によって不幸な立場に追いやられた高貴な女性が、自身の尊厳や社会的地位を取り戻すところにあるといいます。

「本展では、この物語を、ドレスという装いが、主人公をエンパワーする様子を描いていると読み解きました。ディオールのドレスが戦後の女性たちを勇気づけたことと『シンデレラ』のストーリーは、重なる部分があると思います」

挿絵に描かれた衣装を通して、ファッションは美しく飾るだけでなく、身にまとう人の内なる力を引き出すものだと実感できる展示です。

(※1)スカートの下にバッスルと呼ばれる骨組み状の補助具を用いて、ヒップラインに独特のボリュームをつくり出すドレスのスタイル。

人々の語りから視覚的な芸術に発展—挿絵や舞台芸術とモードのつながり

「ふたりのお姫さま」展示風景。「シンデレラ」や「眠れる森の美女」のバレエの衣装や公演の写真を見ることができます第4部「ふたりのお姫さま」展示風景。「シンデレラ」や「眠れる森の美女」のバレエの衣装や公演の写真を見ることができます。

おとぎ話は、もともと民衆の娯楽で、ストーリーテラーが口で語り、それを人々が聞くことで、各地に広まっていきました。(※2)やがて、17世紀に入ると、貴族階級の人々が知識や教養を共有する宮廷サロンの文化が、フランスで花開きます。

サロンの中心となったのは女性たちで、貴婦人の間でおとぎ話を語り、それをもとに物語を創作することが、ひとつの流行として定着しました。たとえば、ヴィルヌーヴ夫人の『美女と野獣』(※3)も、サロン文化から生まれた作品のひとつです。

「口承から文字によって伝えられるものへと変化していく過程で、彼女たちの身振りや華やかなファッションが、おとぎ話とモードをつなぐ重要な役割を果たしただろうと考えています」と山下さん。

再話:アーサー・クィラー=クーチ、絵:エドマンド・デュラック「眠れる森の美女」再話:アーサー・クィラー=クーチ、絵:エドマンド・デュラック「眠れる森の美女」(「眠れる森の美女とその他のおとぎ話」より)(1910年初版)明治学院大学図書館蔵

古い起源と多数の類話をもつ「シンデレラ」と「眠れる森の美女」は、絵画やバレエなど、幅広い表現方法でくり返し描かれ、モードを視覚化するアイコンとして親しまれてきました。

糸を紡ぐ行為がファッションの源流につながり、後世の視覚表現のなかで華やかな装いと結びつけられている点が、「眠れる森の美女」の注目ポイントです。

20世紀初頭に活躍したエドマンド・デュラック(1882〜1953)は、豊かな色彩と写実的な表現で、「眠れる森の美女」の世界を表現しました(上の画像)。眠り姫の煌びやかな装いが、サロンの女性たちのファッションを思わせます。

おとぎ話のモードは、挿絵にとどまらず、やがて舞台芸術の世界にも広がっていきます。

デュラックと同時代に注目されたのが、パリを中心にヨーロッパで一世を風靡したバレエ団「バレエ・リュス」です。「シンデレラ」や「眠れる森の美女」を再解釈した、前衛的な作品が話題を呼びました。

『レオン・バクストの「眠り姫」—ペローの童話に基づく5幕のバレエ』『レオン・バクストの「眠り姫」—ペローの童話に基づく5幕のバレエ』1922年 明治学院大学図書館蔵

「画家のレオン・バクスト(1866〜1924)が衣装や舞台美術をデザインした 『眠り姫』(1921年初演)は、おとぎ話が紙面に限らず、立体的な舞台芸術に発展した好例だといえます」

また、同じくバクストが衣装と舞台美術を手がけた「シェヘラザード」(※4)では、そのデザインが現実のモード界にも取り入れられました。

異国趣味を取り入れたバクストの表現が、ヨーロッパにオリエンタリズムの熱気を再び呼び起こし、舞台芸術とファッションの双方に大きな影響を与えました。

絵:ジョルジュ・バルビエ 左:「移り気な鳥」『モード・エ・マニエル・ドージュルデュイ』 右:「シェヘラザード」『モード・エ・マニエル・ドージュルデュイ』絵:ジョルジュ・バルビエ 左:「移り気な鳥」『モード・エ・マニエル・ドージュルデュイ』1914年(Pl.4) 右:「シェヘラザード」『モード・エ・マニエル・ドージュルデュイ』1914年(Pl.9) 1914年、神戸ファッション美術館 フランスのイラストレーター、バルビエ(1882〜1932)が手がけたモード挿絵から、当時の流行である異国趣味の雰囲気を感じることができます。

(※2)高橋義人『グリム童話の世界—ヨーロッパ文化の深層へ』岩波書店、2010年、p.2

(※3)現在よく知られている筋書きは、1756年にボーモン夫人が記した版です。1740年にヴィルヌーヴ夫人が創作した作品をもとに、子どもに聞かせる物語として書き直したのが、ボーモン夫人の『美女と野獣』です。

(※4)シェヘラザードは、9世紀頃に成立した物語集『千夜一夜物語(アラビアン・ナイト)』に登場する語り手。18世紀から19世紀にかけて、ヨーロッパで東洋への関心が高まり、オリエンタリズムと呼ばれる東洋表象の潮流が形成されますが、その源泉のひとつとなったのが『千夜一夜物語』でした。

配信元: イロハニアート

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