矯正治療は、歯がきれいに並んだら終わり。そう思っていませんか。実は、せっかく整えた歯並びも、治療後の過ごし方によっては元に戻ってしまうことがあります。こうした「後戻り」は、原因を知って正しく対策することで、防ぎやすくなります。本記事では、後戻りが起こるメカニズムや防ぐためのポイント、もし戻ってしまった場合の対処法をココイロ矯正歯科・おとなこども歯科院長の石川先生に解説してもらいました。
※2026年6月取材。

監修歯科医師:
石川 崇典(ココイロ矯正歯科・おとなこども歯科)
鹿児島大学および岡山大学で歯科矯正学分野の助教を歴任後、地元・観音寺市にて「ココイロ矯正歯科・おとなこども歯科」を開業。顎変形症や口蓋裂など高度な矯正治療に対応するほか、地域に根ざした包括的な歯科医療の提供を目指している。日本矯正歯科学会認定医。歯学博士。
なぜ起こる? マウスピース型矯正後の「後戻り」のメカニズムと主な原因
編集部
マウスピース型矯正における「後戻り」とは、具体的にどのような現象を指すのでしょうか?
石川先生
「後戻り」とは、矯正治療で整えた歯並びが元の状態へ戻ろうとする現象です。マウスピース型矯正に限らず、ワイヤー矯正でも同じように起こります。矯正で歯を動かした直後は状態が不安定で、歯の周囲の骨や歯根膜(しこんまく/歯と骨をつなぐ組織)が新しい位置になじみきっていません。そのため、何も対策をしないと、歯を元の位置へ引き戻そうとする力が働きます。後戻りの程度には個人差が大きく、気にならない軽い変化から、再治療が必要となるケースまで幅広く見られます。
編集部
矯正治療後に後戻りが起きてしまう主な原因を教えてください。
石川先生
最も多い原因は、リテーナー(保定装置)の装着不足です。歯並びが整った安心感から装着をやめてしまい、後戻りを招くケースは少なくありません。くわえて、舌で前歯を押す癖や口呼吸、歯ぎしり・食いしばり、頬杖といった日常の何気ない習慣も、歯並びに少しずつ影響します。ほかにも、親知らずが影響する可能性はあります。ただし、それだけが後戻りの原因とは考えられておらず、加齢にともなう歯ぐきや骨の変化など、さまざまな要因が関係すると考えられています。後戻りは一つの理由で起こるよりも、複数の要因が絡み合って進むことが多いため、多角的な注意が必要です。
編集部
治療の内容そのものが後戻りに関係することもあるのでしょうか?
石川先生
あります。治療の段階でかなり無理をして歯を並べた場合、歯並びが不安定になり、後戻りしやすくなることがあります。特に注意したいのは、成人の矯正です。成人はあごの骨の形がすでに完成しているため、歯槽骨(しそうこつ/歯を支えるあごの骨)の範囲を超えて無理に歯列を広げて歯を並べた場合には、治療後の安定性が低下し、後戻りが生じやすくなることがあります。
後戻りを防ぐカギは「保定期間」 リテーナーの種類と正しい使い方
編集部
後戻りを防ぐ「保定期間」とはどのような期間で、なぜ必要なのでしょうか?
石川先生
保定期間とは、矯正治療で動かした歯を新しい位置に安定させるための期間です。「リテーナー」という装置を使って歯を固定し、周囲の骨や歯根膜が新しい位置に定着するのを待ちます。動かしたばかりの歯はその位置にまだなじんでいないため、元の位置に戻りやすい非常に不安定な状態です。そのため、歯が動かないように正しい位置でしっかり維持することが、保定の目的になります。期間には個人差がありますが、一般的には矯正治療にかかったのと同じくらい、最低でも2年間は必要だといわれています。
編集部
リテーナーにはどのような種類があり、それぞれどんな特徴がありますか?
石川先生
リテーナーは、「取り外し式」と「固定式」の2種類に分かれます。取り外し式には、全体を覆う透明なマウスピース型と、ワイヤーとプラスチックを組み合わせたタイプがあります。一方の固定式は、歯の裏側に細いワイヤーを接着するタイプで、自分で着脱する手間がなく、装着忘れを防げるのがメリットです。どの装置を選ぶかは、患者さんの歯並びの状態や生活スタイルに合わせて提案します。
編集部
リテーナーは1日にどのくらいの時間、いつまで装着する必要がありますか?
石川先生
治療を終えた直後は、食事と歯磨きの時間以外はずっと装着してもらうようお願いしています。保定開始後は、歯並びの安定状態を確認しながら、経過に応じて徐々に装着時間を減らしていきます。夜だけの使用に移行し、最終的には2日に1回、3日に1回と減らしていくのが一般的です。期間の目安としては、少なくとも2〜3年は続けてもらいたいところです。最終的にやめる人もいれば、半永久的に夜間の使用を続ける人もいます。
編集部
最終的にリテーナーをやめる人と、長く続ける人がいるとのことですが、どのような違いがあるのでしょうか?
石川先生
患者さんの考え次第という面が大きいです。少しでも歯並びが戻るのは嫌だという人は長く使いますし、リテーナーを使うこと自体が負担に感じる人は、どこかでやめていく傾向があります。ただ、人の歯にはもともと生理的な動きがあり、くわえて加齢や歯周病によっても歯は動きやすくなります。そのため、リテーナーを長く使い続けることは、矯正治療後の後戻りだけでなく、年齢による歯並びの乱れを予防することにもつながります。
編集部
リテーナーの使用以外に、日常生活で後戻りを防ぐためにできることはありますか?
石川先生
後戻りの原因となる癖や習慣に気を配り、意識して直すことが大切です。口呼吸や舌の癖・位置、小さなお子さんであれば下唇を噛む癖など、噛み合わせや歯並びに影響する癖は、できるだけ取り除くことが歯並びの安定につながります。こうした癖の改善には、口周りの筋肉の機能を整える「MFT(口腔筋機能療法/こうくうきんきのうりょうほう)」と呼ばれるトレーニングが有効な場合があります。特に、舌癖や口呼吸などが認められる患者さんでは、リテーナーの装着と並行してMFTを行うことで、歯並びの安定につながる可能性があります。

