●「重量挙げ96kg級の元五輪代表」だから?
本件はどうでしょうか。男は暴力を振るっていないと供述しているとのことですので、そもそも振り払い行為自体がないかもしれません。
以下は仮に、リュックをつかまれて振り払っていた場合です。
この場合でも、その態様だけをみれば、先ほどの徳島地裁の事案に近く、消極的な抵抗にとどまるとして強盗致傷までは成立しない、という可能性もあります。
では、指を2本骨折しているという結果や、「重量挙げの元五輪代表」という事情は、どのように評価されるのでしょうか。
判断の中心は、あくまで暴行の態様や、行われた場所の危険性など、行為そのものに対する評価にあります。けがが重いから反抗を抑圧するほどの暴行がある、と直ちに認定されるわけではありません。また、体格などに差があることも、だから強度の暴行があったのだという認定に直結するわけではありません。
ただし、負傷の部位や程度は、暴行の時にどれだけの力が加わったかを推認させる有力な事情です。また、同じ「振り払う」でも、体格や筋力によって相手に及ぼす力は変わります。今回は96キロ級の元五輪代表と40代の店員という体格の差、体力の差、運動能力の差があると考えられます。いずれも「反抗を抑圧するほどの暴行だった」という方向の認定に働く事情といえます。
このように、本件は「反抗を抑圧するに足りる程度」の暴行があったかどうかが、現状でははっきりしないケースといえます。
まだ逮捕されたばかりの捜査の最初の段階でついた罪名と、検察官が起訴するときの罪名や、裁判所が最後に認める罪名が異なっていることは度々あります。振り払いがどれだけ急激だったのか、店員がどう転倒したのか。今後、防犯カメラの映像などで具体的な暴行の状況が明らかになっていくことでしょう。
小倉匡洋(弁護士ドットコムニュース編集部記者・弁護士)

