胸椎後縦靱帯骨化症(きょうついこうじゅうじんたいこっかしょう)は、背骨(脊椎)の中にある後縦靱帯が骨のように硬くなり、神経を圧迫することがある難病です。主な症状は、体幹から下肢にかけてのしびれや脱力、歩行障害などの神経症状で、進行すると膀胱直腸障害(排尿・排便の障害)がみられることもあります。背部痛が必ずしもこの病気によって起こるとは限りません。みつきさん(仮称)は10年以上前から背中の違和感を覚えながら、「ストレスや精神的なもの」と思い込んでいました。2023年、約2年間続いた原因不明の発熱の原因を調べる検査の過程で、偶然、後縦靱帯の骨化を指摘され、2024年、MRI検査などを経て胸椎後縦靱帯骨化症と診断されます。当時はまだ30代前半でした。鎮痛薬を中心とした保存療法(手術をせず、薬などで症状を和らげる治療)を続けているみつきさんに、発覚から診断、治療、現在に至るまでの経緯を聞きました。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2026年3月取材。
体験者プロフィール:
みつきさん(仮称)
1990年生まれ、岐阜県在住。母親と2人暮らし。元介護士。2023年の検査で後縦靱帯の骨化を指摘され、2024年に胸椎後縦靱帯骨化症と診断される。現在は鎮痛薬を中心とした保存療法を続けながら、将来の手術の可能性も含めて経過観察中。
気のせいだと思っていた背中の違和感の正体
編集部
体に異変を感じたのはいつごろでしたか?
みつきさん
10年以上前から、背中に何かが触れているような感覚がありました。痛みもあり、当初は疲労によるものと考えていました。
私は双極症(双極性障害)という、気分が高ぶる躁(そう)状態と落ち込むうつ状態を繰り返す病気の治療を受けています。そのため、周囲からは「ストレスや気分の問題ではないか?」と言われることが多く、自分自身もそう思い込もうとしていた時期がありました。
編集部
どのような経緯で診断に至ったのでしょうか?
みつきさん
約2年間続いた原因不明の発熱をきっかけに総合診療科を受診し、CT検査を受けました。その際に後縦靱帯の骨化を指摘されて、専門科での詳しい検査を勧められ、MRI検査で詳しく調べた結果、胸椎後縦靱帯骨化症と診断されました(※)。※発熱は、胸椎後縦靱帯骨化症によって起こる症状ではありません。みつきさんの場合は、発熱の原因を調べる検査の過程で、偶然、後縦靱帯の骨化が見つかりました
編集部
医師からは、どのような説明がありましたか?
みつきさん
医師からは「脊椎の後ろ側にある靱帯が骨化して神経を圧迫することがあり、進行すると痛みやしびれ、歩行障害などが出ることがあります」と説明を受けました。「現段階では保存療法で経過を観察します。症状の進行状況によっては手術を検討する可能性があります」とも言われています。
編集部
診断を受けたときの心境を教えてください。
みつきさん
「まさか自分が難病だったのか」という驚きと、「やはり体の問題だったのか」という思いがありました。背中の痛みや違和感を訴えても、精神的な問題として受け取られることが多く、自分でも原因が分からずに悩んでいたからです。
かつては介護士として人の体を支える側だった私が、今度は支えられる側になることへの葛藤(かっとう)もありました。
編集部
症状はどのように進行していったのでしょうか?
みつきさん
次第に背中の中央、肩甲骨の少し下あたりに、常に何かが挟まっているような痛みが出てきました。痛みは1日の中でも変動し、砂利のように感じたり、河原の石のように重く感じたり、ゴツゴツした岩のように感じたりすることもあります。年々、歩き方にも変化が出てきて、バランスを崩しやすくなってきました。
自分なりの病気との向き合い方
編集部
現在は、どのような治療を受けているのですか?
みつきさん
薬物療法を中心とした保存療法を受けています。非ステロイド性抗炎症薬(痛みや炎症を抑える薬)やオピオイド(強い痛みに用いられる鎮痛薬)などで痛みを抑えながら、定期的にCT検査やMRI検査を受け、症状の経過を見ている段階です。また、医師からは手術の可能性についても、2回にわたり説明がありました(※)。※一般に、胸椎後縦靱帯骨化症では、症状が軽く進行がみられない段階では鎮痛薬などによる保存療法が選択されますが、脊髄が圧迫されて起こる症状(しびれ・脱力・歩行障害など)が進行する場合は、手術治療が中心となります。治療方針は、骨化の範囲や症状の程度、進行の速さなどにより、個別に判断されます
編集部
闘病生活で、支えになった人はいますか?
みつきさん
母や主治医、訪問看護師です。母は私の病状を理解し、歩き方の変化を動画で撮影してくれたり、病院に付き添ってくれたりしています。主治医は私の訴えを傾聴し、適切な検査や処方をした上で、「急な動きを避け、休めるときは安静にしてください(※)」といった助言もくれます。訪問看護師は、心と体の両面からケアしてくれる存在です。※個人の状況によって異なります
編集部
みつきさんの病気との向き合い方について教えてください。
みつきさん
私は、診察を振り返ったり、病気への理解を深めたりするために、自分のCT画像やMRI画像のデータ(DICOM/医用画像の標準的なデータ形式)をすべて自分で保管し、自宅のパソコンで見返しています。人の言葉には感情が乗ります。ときには心ない言葉を向けられることもありますが、画像は違います。CTやMRIの画像は、そこにある事実をそのまま映し出し、体の状態を客観的に示してくれます。
編集部
医療スタッフと関わる上で、印象に残っていることはありますか?
みつきさん
看護師が忙しい外来の中で、「無理をせず、体に気を付けてくださいね」と声をかけてくれたことです。また、検査画像などの客観的な情報があることで、自分の状態を理解してもらえたこともありました。

