性にまつわるトラブルは決して「特別な子」の話ではなく、誰もが当事者になり得る、私たち全員に関わるテーマです。親にとって難しいテーマを扱った本書ですが、イゴカオリさんの漫画で斉藤さんと櫻井さんの話がわかりやすく描かれています。
前回の記事では、性加害を起こす子どもたちの多くが、生活態度や環境などもごく普通に見えるというお話を聞きました。そう聞くと、「では、親としてどうすればいいのか?」「何ができるのか?」と不安に感じる人も多いのではないでしょうか。とくに子どもが思春期を迎えると、性についての話題は切り出しづらくなり、親としてどう向き合えばよいのか悩むことも少なくありません。
そこで今回は、子どもを加害者にも被害者にもしないために、家庭でどのようなコミュニケーションを心がければよいのかについて、斉藤さんと櫻井さんに話を聞きました。専門家として、そして思春期の子どもを育ててきた親でもある二人が実践してきたこととは――。


思春期の子どもに、先回りして「教える」ことは難しい
――前回、子どもたちを取り巻く環境の変化によって、性加害のハードルが低くなっているというお話を伺いました。性加害をした子どもには高校生など思春期の子どもが多いとのことでしたが、親はこの時期の子どもとどのように向き合えばよいのでしょうか?斉藤章佳さん(以下、斉藤):親が先回りして、あらゆる問題を防ぐことは難しいと思っています。子どもは成長するにつれて、何が良くて何が悪いのかを理解するようになりますから、親に知られたくないことは隠すようになります。
SNSで問題のある行動をしていても、スマホを取り上げられるかもしれないと考えれば、親の目から逃れようと必死になります。
――そうなると、「親には何もできないのでは」と不安になります。
斉藤:親としては何かを教えるよりも、日常のなかで「気づきを共有する」ことが大切だと思っています。その積み重ねによって、親子の認識が少しずつ共有できていくんです。
私自身の話ですが、以前、息子と電車に乗っていたときに、私が居眠りをしてしまったことがありました。目を覚ますと、息子がスマホで車内の写真を撮っていたんです。本人は何気なく風景を撮っただけだったようなのですが、公共交通機関内での撮影は意図せず他人が写り込むなどで誤解を招くことがあります。盗撮と疑われる可能性もありますし、思わぬトラブルに巻き込まれることもあります。
実際、学生を狙って「盗撮していただろ」と言いがかりをつけ、お金を要求するようなケースもあります(通称:盗撮ハンター)。そこで私は、そうしたリスクがあることを息子に伝えました。問題行動でなくても、「少し危ういな」と感じたときに伝える。これも一つの“気づきの共有”です。
――何か大きな問題が起きてから慌てて話すのではなく、日常のなかで少しずつ伝えていくのですね。
斉藤:そうです。日常のなかで生まれた小さな気づきを親子で共有する。その積み重ねが、「これは危ないかもしれない」「こういう見方をされることもあるんだな」という感覚を育んでいくのだと思います。
「教える」のではなく「受け止める」ことから
――そのためには、日頃から親子で話しやすい関係をつくることも大切になりそうですね。斉藤:そうですね。会話の内容は、特別なものでなくていいんです。我が家では、夜に一緒にゴミ出しへ行くときや、お風呂上がりに外で涼んでいるとき、塾から帰ってきてソファで休んでいるときなど、ちょっとした時間にたわいもない話をします。
そうした何気ない会話の積み重ねがあると、何か起きたときの話の伝わり方が全然違うんです。普段ほとんど会話をしていない状態で急に大事な話をしても、なかなか届きません。日頃から話していると、親が伝えたいことのニュアンスも理解してもらいやすいし、子どもも相談しやすくなる。結果として、問題が起きたときにも早めに対応できると思っています。
――話しやすい関係をつくるうえで、親はどのような姿勢で子どもと向き合えばよいのでしょうか。
櫻井裕子さん(以下、櫻井):思春期の子どもたちが求めているのは、教えてもらうことよりも、自分の体験や気持ちを受け止めてもらうことだと感じます。親は知識や情報を持っていますし、大人として伝えたいこともたくさんあります。だから、つい会話の中でアドバイスしたり、教えたりしたくなってしまうんですよね。
でも、まずは子どもの話を聞く。その姿勢こそ、子どもが困ったときに相談しやすい関係を築くうえで大切だと思います。

