アジソン病は、副腎から分泌されるホルモンが不足するために起こる病気です。適切な治療を受けなければ重篤な症状を引き起こす可能性があります。一方で、早期に適切な診断を受け、ホルモン補充療法を継続するとともに、シックデイルールを理解して実践し、副腎クリーゼへの対応を身に付けていれば、通常に近い日常生活を送れることが期待できます。
本記事では、アジソン病の基本的な治療法やホルモン補充療法の内容、治療中の注意点、日常生活で知っておきたいポイントなどを解説します。

監修医師:
上田 莉子(医師)
関西医科大学卒業。滋賀医科大学医学部付属病院研修医修了。滋賀医科大学医学部付属病院糖尿病内分泌内科専修医、 京都岡本記念病院糖尿病内分泌内科医員、関西医科大学付属病院糖尿病科病院助教などを経て現職。日本糖尿病学会専門医、 日本内分泌学会内分泌代謝科専門医、日本内科学会総合内科専門医、日本医師会認定産業医、日本専門医機構認定内分泌代謝・糖尿病内科領域 専門研修指導医、内科臨床研修指導医
アジソン病の基本的な治療

アジソン病ではどのような治療をしますか?
アジソン病の治療では、不足している副腎皮質ホルモンを薬で補うホルモン補充療法を行います。これは、アジソン病は副腎の働きが低下し、生命維持に重要なコルチゾールやアルドステロンが十分に分泌されなくなるためです。治療の中心となるのは、不足しているコルチゾールを補うためのヒドロコルチゾン補充です。必要に応じて、アルドステロンの働きを補うフルドロコルチゾンを併用する場合もあります。適切な補充療法を行うことで、倦怠感や食欲不振、体重減少、低血圧などの症状の改善が期待できます。
また、感染症や発熱、手術、外傷などで身体的ストレスや精神的ストレスを受けると、通常よりも多くのコルチゾールが必要になります。そのため、一時的に薬を増量するシックデイルールを正しく理解し、実践することがアジソン病の管理で重要です。
ヒドロコルチゾンなどのホルモン補充とはどのようなものか教えてください
ヒドロコルチゾンは、体内で副腎皮質から分泌されるコルチゾールと同じ働きを持つ薬です。アジソン病はコルチゾールが不足するため、ヒドロコルチゾンを毎日服用することで、体内のホルモン量を補充・維持します。通常は1日2〜3回に分けて服用します。薬の服用量を朝に多く、夕方以降は少なくすることで、本来のコルチゾール分泌リズムに近づけます。これにより、血圧や血糖値、代謝機能を正常に近い状態に保ち、日常生活を支えることができます。
また、アルドステロン不足を伴う必要がある場合にはフルドロコルチゾンを併用します。アルドステロンには体内の塩分と水分のバランスを調整し、血圧を維持する役割があります。補充によって脱水や低血圧、電解質異常の予防が期待できます。
薬はどのくらいの期間続けますか?
アジソン病は、副腎機能の回復が期待できないことが多いため、基本的には生涯にわたってホルモン補充療法を継続します。薬によって症状が改善しても、副腎が正常にホルモンを分泌できるようになったわけではないため、自己判断で中止してはいけません。服薬を中断すると、副腎不全の症状が再び現れるだけでなく、重症化すると副腎クリーゼという病態を引き起こし、ショックや意識障害など命に関わる状態に至ることがあります。
そのため、定期的に診察や血液検査を受けながら、体調や生活環境に応じて薬の量を増量することが重要です。適切な補充療法を継続するとともに、シックデイルールを理解して実践し、副腎クリーゼへの対応を身に付けていれば、通常に近い日常生活を送れることが期待できます。一般の人とほぼ変わらない寿命が期待できます。
参照:
『アジソン病(指定難病83)』(難病情報センター)
『アジソン病』(難病情報センター)
『アジソン病』(厚生労働省)
アジソン病の治療で気を付けたいこと

体調が悪いときに薬の量を増やすのはなぜですか?
健康な方は、発熱や感染症、けが、手術などで身体的ストレスやピアノの発表会などの精神的ストレスを受けると、副腎皮質から分泌されるコルチゾールの量が自然に増加します。しかし、アジソン病は副腎皮質が十分に機能しないため、身体がストレスに打ち勝つために必要な量のコルチゾールを分泌できません。そのため、身体的ストレスや精神的ストレスを受けた際は、普段と同じ量の薬ではホルモンが不足してしまう可能性があります。この不足を防ぐために、医師の指示にしたがって一定の期間ヒドロコルチゾンを一時的に増量するシックデイルールを実行します。適切に増量することで、副腎クリーゼの予防につながります。
副腎クリーゼとはどのような状態か教えてください
副腎クリーゼ(急性副腎不全)は、体内のコルチゾールが急激に不足し、全身状態が著しく悪化する緊急疾患です。アジソン病など副腎に問題のある患者さんが薬を飲めなかった場合や、感染症・手術などの強いストレス時にホルモン補充が不足した場合に発症する場合があります。主な症状として、強い倦怠感、吐き気、嘔吐、腹痛、高熱、血圧低下、意識障害などがみられます。重症化するとショック状態に陥り、命に関わることもあります。アジソン病の患者さんが高熱や激しい嘔吐、強い脱力感などを認めた場合は、副腎クリーゼの可能性を考えて速やかに医療機関を受診することが重要です。
日常生活で気を付けることはありますか?
アジソン病は、毎日の服薬を欠かさないことが重要です。症状が安定していても、副腎機能そのものが回復しているわけではないため、自己判断で薬を中断してはいけません。また、発熱や感染症などの体調不良を含むストレス時に備えて、シックデイルールの内容を理解しておくことが大切です。嘔吐などで内服できない場合には点滴でのホルモン投与が必要であり、緊急受診が必要となることがあります。
さらに、外出時には病名や服用薬を記載した緊急カードや医療情報カードを携帯しておくことが推奨されています。万が一、意識障害などが起きた場合でも、周囲や医療従事者が適切な対応を取りやすくなるためです。
日頃から十分な睡眠や栄養を確保し、感染症予防に努めることも重要です。適切なホルモン補充療法を継続できれば、多くの患者さんは通常に近い生活を送ることが可能とされています。
参照:
『アジソン病(指定難病83)』(難病情報センター)
『急性副腎不全(副腎クリーゼ)』(日本内科学会)

