糖尿病性腎症は、糖尿病の状態が長く続くことで腎臓の細い血管に負担がかかり、腎機能が少しずつ低下していく病気です。近年は、典型的な糖尿病性腎症に加え、アルブミン尿がはっきりしないまま腎機能が低下する例も含めて、糖尿病性腎臓病(DKD)と呼ばれることがあります。初期には自覚症状がほとんどなく、気付かないうちに進行し、末期腎不全に至ると人工透析や腎移植が必要になることがあります。2023年の改定で、病期分類の呼称が見直され、新しい治療薬に関する知見も反映されました。
この記事は、糖尿病性腎症のステージを決める検査指標、2023年の改訂ポイント、各ステージで考えられる治療方針を解説します。

監修医師:
林 良典(医師)
名古屋市立大学
【経歴】
東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科、NTT東日本関東病院予防医学センター・総合診療科を経て現職。
【資格】
医学博士、公認心理師、総合診療特任指導医、総合内科専門医、老年科専門医、認知症専門医・指導医、在宅医療連合学会専門医・指導医、日本緩和医療学会認定登録医、禁煙サポーター
糖尿病性腎症の病期分類とは

糖尿病性腎症のステージ(病期分類)はどのようなものですか?
糖尿病性腎症のステージは、病気の進み具合に応じて第1期から第5期までの5段階に分けられます。腎臓の状態を把握し、治療の必要性や今後の見通しを考えるための指標です。第1期は正常アルブミン尿期、第2期は微量アルブミン尿期、第3期は顕性アルブミン尿期です。さらに腎機能が大きく低下すると第4期の腎不全期となり、腎代替療法が必要になる段階が第5期の透析療法期です。
病期分類はどのような検査値で判定するのか教えてください
病期は、尿検査で確認する尿アルブミンまたは尿蛋白と、血液検査から算出するeGFR(推算糸球体濾過量)で判定します。尿アルブミンは、腎臓のフィルター機能への負担を早い段階で知る手がかりです。尿中アルブミン/クレアチニン比が30mg/gCr未満であれば正常アルブミン尿、30〜299mg/gCrであれば微量アルブミン尿、300mg/gCr以上であれば顕性アルブミン尿と判定します。
また、尿蛋白/クレアチニン比が0.5g/gCr以上の場合も、第3期に相当する顕性蛋白尿として扱います。eGFRは腎臓が血液をろ過する力を示す数値で、低いほど腎機能が低下していることを意味します。特にeGFRが30mL/分/1.73m2未満になると、尿アルブミンや尿蛋白の量にかかわらず第4期の腎不全期と判断されます。
病期分類は2023年の改訂により何が変わったのですか?
糖尿病性腎症病期分類2023では、各ステージの呼称が見直されました。これまで第1期は腎症前期、第2期は早期腎症期、第3期は顕性腎症期と呼ばれていましたが、第1期は正常アルブミン尿期、第2期は微量アルブミン尿期、第3期は顕性アルブミン尿期と呼ぶようになりました。分類の基本となる尿アルブミンや尿蛋白、eGFRの考え方は大きく変わっていません。一方で、糖尿病の方の腎臓の状態は、糖尿病性腎症の病期分類だけでなく、CKD重症度分類も併せて確認することがすすめられています。
参照:『糖尿病性腎症病期分類 2023 の策定』(日本腎臓学会)
各ステージの特徴と治療方針

早期段階(第1期・第2期)の特徴と治療方針を教えてください
第1期と第2期は、自覚症状がほとんどない早期の段階です。第1期は尿アルブミンが正常範囲で、第2期は尿アルブミンが軽度に増えています。どちらもeGFRは30mL/分/1.73m2以上です。この時期は、第3期以降へ進ませないことが治療の目標です。治療は、血糖、血圧、脂質を併せて管理します。血糖はHbA1c7.0%未満、血圧は130/80mmHg未満を目標にすることが基本ですが、年齢や低血糖のリスクに応じて調整します。
薬は、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)やアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)やナトリウム・グルコース共輸送体2阻害薬(SGLT2阻害薬)が使われることがあります。食事は、塩分を1日6g未満に抑えることが基本です。
中等度段階(第3期)ではどのような変化がみられますか?
第3期は、尿アルブミンまたは尿蛋白がはっきり増えている段階です。病期分類上はeGFR 30mL/分/1.73m2以上ですが、腎機能の低下が進みやすくなります。むくみなどの症状が出ないこともありますが、心筋梗塞や脳卒中などのリスクも高まるため、腎臓と血管の両方を守る治療が必要です。治療は、早期よりも管理を強めます。薬は第1期・第2期と同様にACE阻害薬やARB、SGLT2阻害薬を使うことがあり、必要に応じてミネラルコルチコイド受容体拮抗薬であるフィネレノンなどの薬も検討されます。
食事は減塩を続け、腎機能や尿蛋白の程度に応じて、タンパク質の量を調整します。なお、CKD重症度分類でG3b、つまりeGFR 45mL/分/1.73m2未満まで低下している場合は、体重1Kgあたり1日0.6〜0.8g程度がタンパク質摂取量の目安です。
進行段階(第4期・第5期)ではどのような治療が必要になりますか?
第4期は、尿アルブミンや尿蛋白の量にかかわらず、eGFRが30mL/分/1.73m2未満に低下した段階です。第5期は、血液透析、腹膜透析、腎移植などの腎代替療法が必要です。この時期は、貧血、むくみ、高カリウム血症、カルシウムやリンのバランスの乱れによる骨の異常などの合併症が起こりやすくなります。
治療は、腎機能低下に伴う合併症を管理します。貧血には赤血球造血刺激因子製剤(ESA)や低酸素誘導因子プロリン水酸化酵素阻害薬(HIF-PH阻害薬)が使われることがあります。
血圧は下げすぎにも配慮しながら調整します。第4期からは、腎代替療法の準備も始め、医師や看護師、管理栄養士、ソーシャルワーカーなどと相談しながら治療方針を選んでいきます。

