バセドウ病は、甲状腺ホルモンが過剰に分泌される自己免疫疾患です。しかし、「なぜ発症するのか」「遺伝するのか」「生活習慣が原因なのか」と疑問に感じる方も多いのではないでしょうか。
本記事では、バセドウ病が起こるしくみやTRAb(TSH受容体抗体)の役割、発症に関わる要因、原因に関するよくある疑問などを解説します。

監修医師:
林 良典(医師)
名古屋市立大学
【経歴】
東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科、NTT東日本関東病院予防医学センター・総合診療科を経て現職。
【資格】
医学博士、公認心理師、総合診療特任指導医、総合内科専門医、老年科専門医、認知症専門医・指導医、在宅医療連合学会専門医・指導医、日本緩和医療学会認定登録医、禁煙サポーター
バセドウ病が起こるしくみ

バセドウ病の原因は何ですか?
バセドウ病は自己免疫疾患の一つです。本来は身体を守るために働く免疫機能に異常が生じ、自分自身の甲状腺を刺激する抗体が作られることで発症します。発症の詳しい原因はまだ完全には解明されていませんが、遺伝的要因と環境要因が複雑に関与すると考えられています。家族に甲状腺疾患のある方では発症しやすい傾向があり、喫煙、強いストレス、感染症、妊娠・出産などが発症や増悪のきっかけになることがあります。
バセドウ病そのものは感染する病気ではなく、生活習慣だけが原因で起こる病気でもありません。
TRAb(TSH受容体抗体)とは何か教えてください
TRAb(TSH受容体抗体)は、甲状腺の細胞表面に存在するTSH受容体に結合する自己抗体です。TSHは本来、脳の下垂体から分泌されて甲状腺にホルモンを作るよう指令を出すホルモンですが、TRAbはTSHの代わりにTSH受容体を刺激し続けます。その結果、甲状腺は実際にはTSHが少ない状態でも刺激を受け続け、甲状腺ホルモンを過剰に産生するようになります。TRAbはバセドウ病の診断で重要な検査項目の一つであり、多くの患者さんで陽性になります。
なぜ甲状腺ホルモンが過剰になるのですか?
バセドウ病は、TRAbがTSH受容体を持続的に刺激するため、甲状腺が常に「ホルモンを作れ」と指令を受けている状態です。そのため、甲状腺ホルモンであるFT3やFT4が必要以上に分泌されます。通常は甲状腺ホルモンが増えると脳の下垂体からのTSH分泌が減少し、ホルモン産生を抑える調節機能が働きます。しかし、バセドウ病はTRAbによる刺激が続くため、この調節機能が十分に働かず、甲状腺ホルモンが過剰な状態になります。
その結果、全身の代謝が過度に高まり、動悸や体重減少、発汗増加、手のふるえなどの症状が現れます。
参照:
『甲状腺疾患診断ガイドライン2024』(日本甲状腺学会)
『バセドウ病』(日本内分泌学会)
バセドウ病の発症に関わる要因

遺伝は関係しますか?
はい。バセドウ病の発症には遺伝的要因が関与すると考えられています。実際に、家族内でバセドウ病やほかの自己免疫性甲状腺疾患がみられることがあり、特定の遺伝子との関連も報告されています。ただし、遺伝だけで発症するわけではありません。同じ家系内でも発症する方としない方がおり、環境要因や免疫機能の変化などが組み合わさることで発症すると考えられています。そのため、単純に遺伝する病気ではなく、発症しやすい体質を受け継ぐ可能性がある病気と理解するのが適切です。
喫煙やウイルス感染は発症に関わりますか?
喫煙はバセドウ病の発症や悪化に関与する環境要因の一つと考えられています。特に、バセドウ病に伴う眼症(甲状腺眼症)の発症や重症化との関連が指摘されており、治療中の禁煙が推奨されています。また、ウイルス感染が発症の引き金となる可能性が研究されていますが、現時点では特定のウイルスが直接的な原因であることは明確には証明されていません。感染症による免疫反応が自己免疫異常を誘発し、発症に関与する可能性があると考えられています。
女性に多いのはなぜですか?
バセドウ病は男性よりも女性に多くみられ、一般的に女性の患者数は男性の約3〜5倍とされています。これはバセドウ病に限らず、多くの自己免疫疾患で共通してみられる特徴です。その理由は完全には解明されていませんが、女性ホルモンが免疫機能に影響を与えることや、妊娠・出産に伴う免疫環境の変化が関与している可能性が指摘されています。また、遺伝的要因や性染色体の違いも発症に関与すると考えられています。
現在のところ、女性に多い理由はわかっておらず、複数の要因が関係するものと考えられています。
参照:
『甲状腺疾患診断ガイドライン2024』(日本甲状腺学会)
『バセドウ病』(日本内分泌学会)

