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【東大】白髪が増えるのはがんを防ぐため――「白髪=悪」の常識を覆す!

【東大】白髪が増えるのはがんを防ぐため――「白髪=悪」の常識を覆す!

まとめ:白髪化に代表される老化は体を「がん」から守っている

まとめ:白髪化に代表される老化は体を「がん」から守っている
まとめ:白髪化に代表される老化は体を「がん」から守っている / Credit:Canva

白髪になることは、多くの人にとっては単なる「加齢のサイン」です。

しかし今回の研究が示したのは、白髪がそんな単純な現象ではなく、体を守るために働いている可能性があるということでした。

細胞の視点で見てみましょう。

私たちの体では毎日、多くの細胞が新しく生まれ、古い細胞は老化してやがて寿命を迎えます。

この入れ替わりが順調に行われることで、体の健康が保たれています。

でも、もし古くなったり傷ついた細胞がそのまま居座り続けたらどうなるでしょうか。

長年働いて疲れ切った細胞や、DNAが傷ついた細胞は、次第に異常を起こす危険が高くなります。

特にDNAに大きな損傷を受けた細胞は、暴走してがん細胞へと変わってしまうことがあります。

ここで体には、とても賢い仕組みがあります。

それが「細胞の老化」というシステムです。

傷ついた細胞は無理に働き続けるのではなく、活動を止めて静かに退場します。

いわば、役目を終えた細胞が「引退」して、周囲の健康を守るのです。

今回の研究では、毛髪の色をつくる「色素幹細胞」に注目して、この仕組みを詳しく観察しました。

色素幹細胞が放射線などの強いダメージを受けると、「老化して分化する」という現象を起こし、幹細胞としての活動をやめます。

その結果、新しく生えてくる髪には色がつかず、白髪になります。

一見するとただの老化現象ですが、実際にはこの白髪化という現象が、傷ついた細胞を安全に処理し、がん化を防ぐ防御システムとして働いている可能性があるのです。

マウスの実験では、この仕組みによって皮膚のメラノーマ(皮膚がん)の腫瘍数が減少する傾向が確認されました。

逆に言うと、もしこの細胞の老化システムがうまく働かなければどうなるでしょうか。

傷ついた細胞は退場せずに毛根に居座り続け、がん化するリスクが高まってしまいます。

つまり、白髪にならないことが、ある場合には体の中の危険を知らせるサインになることもあるのです。

興味深いことに、人間でもそれを裏づけるような症例が報告されています。

高齢の方の白髪が部分的に黒く戻った場所から、メラノーマ(皮膚がん)が見つかった例が複数確認されているのです。

「髪の色が戻ること」は一見うれしいことのように思えますが、その裏では細胞が暴走している可能性もある――そんな警告として受け止めるべき場合もあるのです。

この研究から、私たちはいくつかの教訓を得ることができます。

世の中には「白髪を黒く戻す」とうたう商品や施術が数多くあります。

けれども、細胞が自然に老化してがんを防いでいる仕組みを考えると、無理に細胞を若返らせようとすることは、かえって体に負担をかける可能性があるのです。

繰り返しになりますが、老化の仕組みは単なる衰えではなく、体を守るための重要な安全装置でもあります。

もちろん、今回の結果はマウスの研究に基づくもので人間でもまったく同じことが起こるかどうかは、今後の研究で確かめる必要があります。

ただ、研究チームは人間の皮膚サンプルを調べた結果、マウスで見つかった仕組みが人間でも部分的に働いている可能性を示しました。

これはまだ限定的な結果ですが、老化とがんの関係を理解するうえで重要なヒントになります。

この研究の意義は、「老化には防御の側面がある」という新しい視点を私たちに与えたことです。

これまで老化は「体の衰え」としてネガティブに語られがちでしたが、白髪という身近な現象を通じて、老化そのものが体を守る働きを持つ可能性が見えてきたのです。

さらに、この知見は「老化細胞を取り除けば若返る」という単純な発想にも一石を投じます。

もし老化が防御の一部であるなら、無理にそれを止めたり逆転させたりすることは、体のバランスを崩す危険があります。

大切なのは、老化を「なくすこと」ではなく、「うまく共存すること」なのかもしれません。

私たちの体は、外見の若さを失う代わりに、内側で健康を保つための選択をしているのです。

この幹細胞の運命の分かれ道を解き明かした研究は、今後の老化やがんの理解を深める大きな一歩となるでしょう。

白髪という身近な変化を通じて、老化を「敵」ではなく「味方」として見る新しい時代が始まりつつあります。

参考文献

ストレスタイプが決定する老化とがん化の分岐点とその仕組み ――白髪が増えるのはがんを防ぐため? ――
https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/about/press/page_00356.html

元論文

Antagonistic stem cell fates under stress govern decisions between hair greying and melanoma
https://doi.org/10.1038/s41556-025-01769-9

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

配信元: ナゾロジー

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