最終盤に差しかかったサッカーJ1リーグで「小さな巨人」として恐れられているのは、川崎フロンターレのFW伊藤達哉だ。
167センチのサイドアタッカーは、8月に入ってからリーグ戦11試合で9ゴール、カップ戦4試合で3ゴールをマーク。9月のJリーグ月間MVPに選ばれ、無双モードに突入している。
その経歴は異色で、28歳を迎えた今シーズンがJ1初挑戦。高校時代は柏レイソルの下部組織に所属し、卒業前にドイツに渡ると、2017年シーズンにハンブルガーSVでプロデビューした。それからシント=トロイデン(ベルギー)、マクデブルク(ドイツ2部)と渡り歩くなど、7年間、欧州リーグで揉まれてきた。サッカーライターがそのプレーを解説する。
「爆発的なスピードとキレキレのドリブルは超一級品。海外から戻ってきた選手がよく『Jリーグは別モノ』と表現しますが、伊藤もシーズン序盤はレフェリングを含めて戸惑いを感じていました。それでも夏場に日本の水に慣れてから、は本領を発揮しています」
得点力はJリーグで覚醒した。第34節の清水エスパルス戦では、巧みなタッチで相手DFが足を伸ばしてくるのを誘い出し、その股下を狙ってワールドクラスのゴールを奪っている。
ピッチで別格の輝きを放つ伊藤に、日本代表待望論が持ち上がるのは当然のことだ。しかし、森保ジャパンからまだ、声がかかっていない。その理由を前出のサッカーライターが語る。
「今までの4-2-3-1のフォーメーションなら、代表入りの可能性は高かったんです。それが来年の北中米ワールドカップに向けて3-4-2-1へと変更になり、特にサイドアタッカーは馬車馬のように守備が求められる。攻撃特化型の伊藤は厳しい状況に追い込まれました。10月の代表選で、J1から同じタイプのMF相馬勇紀(町田ゼルビア)が選ばれていますが、ロングスローの飛び道具を持っているのは大きかった。ただでさえ海外組のライバルが強烈な中、伊藤ですら居場所がないほど、サバイバルレースは熾烈を極めています」
W杯まで残された時間は少ないが、「逆輸入」でブレイクした伊藤の下剋上での代表入りに期待したい。
(風吹啓太)

