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瀬戸内海を望むバーバーは、なぜケープの世界的ブランドになったのか。

瀬戸内海に面す岡山県玉野市宇野。直島や豊島が浮かぶなだらかな海面を走るフェリーが窓越しに見える。夕刻にはすべてが赤く染まり、なぜか郷愁をくすぐる。『ソレイユ・ルヴァン』は、そんな贅沢な景色を借景できる“バーバー”だ。

会員制バーバーと、もうひとつの顔。

店は一脚。完全会員制で客は毎回ひとりだけ受け付ける。年間契約した約70名の会員をオーナーの中村浩茂さんがすべて対応する。

それだけで十分ユニークだが、ココの面白さはもう一つある。散髪時に服に毛がつかないよう客が着用するカッティングケープ。中村さんは『中村商店』の名で、そのケープに和柄や幾何学模様などのプリントを施して製造販売。国内外のバーバーからもリスペクトされるプロユースのブランドを展開しているのだ。

「前はずっとこの海を眺めるだけのダラダラした生活をしていたんですけどね」と中村さんは言う。

「まあ、今もゆるくやってるか」

何をするにも、「真ん中」でしかなかった。

宇野から西へ20㎞ほどの場所。ジーンズで知られる児島で中村さんは生まれた。小学校の頃から瀬戸内の海を横目に登校。下校時も海を眺めて帰宅し、その後は祖父の話を聞くのが常だった。

「インテリでアナーキーな祖父で。日本酒を飲りながらいつも僕に『世の中の不合理』や『社会の構造』を教えてこんでくる。さっぱりわからなかったけど(笑)」

しかし幼少期の教えは不思議と体に染み込むものだ。世の中を少し俯瞰でとらえ、構造から推しはかるクセが身についていた。

だから「自分はいつも“真ん中”でしかない」と強く自認、小さな劣等感を感じていたという。

「小学生の頃はミニ四駆が流行ったけど僕より早い友達がごまんといた。やんちゃな友達も多かったけど、彼らほど悪さもしない。いつも“尖れない”ヤツでしたね」

高校に入ると「ゲーセン」「カラオケで歌う」「海でダベる」のルーティンを回すど真ん中な学生生活。その後、理容師を志す。理由はもちろん尖ってない。

「子どもの頃みかけた床屋のおっちゃんがいつも店で昼寝していた。『のん気な仕事でいいな』と」

同時に地元の先輩が美容師になり、シボレーのカプリスワゴンを乗りこなす洒落た人だった。カッコよくてラクな仕事。「なんていい仕事だ!」と道を決めた。

上京して渋谷の理美容専門学校で学び、浦和の理容室に入った。もっとも3年で店を辞めて岡山へ戻る。新人がすべき掃除や練習よりも組織やしくみの最適化に関心を持ち、掃除や練習ではなく、本で経営知識をひろげることに没頭。オーナーには大切にされたが期待に応えられず退職したのだ。

「生き方を固執しすぎましたね」

じわじわと尖り始めた中村さんは岡山で独立してから本領を発揮しだす。まずは2004年、妹尾に最初の店を立ち上げた。

「施術用イスは1脚。広い店にヴィンテージ調の応接セットを置き、そこで本や映画や昼寝を楽しみ、たまに髪を切る、みたいな」

確かな腕とスタイルですぐ顧客もついた。忙しくなりすぎないちょうどいいのん気さも良かった。ただ8年ほど店を続けるうち、しっくりこないことが一つあった。

「それがケープだったんです」

配信元: Dig-it

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