自分たちのために創り、アメリカから火がついた。
内装も外装も、自分好みのスタイルで統一したバーバー。しかし、お客さんに着せるケープだけは真っ白で味気ないデザインしか、手に入らなかった。
「そのくせケープってめちゃくちゃ大判で店の雰囲気を左右するほどに目立つ。もっといいのはないか、と探し始めたんです」
010年頃、早くからSNSを使っていた中村さんはインスタでアメリカのバーバーがカラフルなケープを使うのを発見。「コレだ!」と取り寄せたが、違った。
「丈が短かかったり、ボタンもとれてたり。なら自分で創るかと」
いきなりのものづくり宣言。勝算があった。生まれ故郷の児島は繊維産業盛んな町だ。自身のお客さんにも友人にも、その業界に従事する人がいた。デザインは妻に手伝ってもらい、試作を2〜3枚つくると、ガラリと店の世界観が深まるケープができあがった。毛のすべりも完ぺきだった。
『同じような個性的なケープが欲しい理美容師がいるのでは?』と直感した。ただここでやみくもに動かないのが、祖父の血をひくインテリジェンスを感じさせる。
「自分は“真ん中でしかない”意識がまだありますからね。本当にこだわったスタイルを持つバーバーが『どんなケープなら欲しいか』教えてもらおうと思った」
当時から東京・神田などで新たなバーバースタイルの震源地となっていた『バルバ・トウキョウ』のTOM氏らのコミュニティに参加。彼らが欲しいケープが何かを伺い、彼らのオーダーを受け、求められるケープを創り始めた。
2014年、こうして『中村商店』は身内向けに小さく生まれた。
ただ世界がそれを許さない。SNSに商品をアップすると日本国内の理容師や美容師より先に、NYやLAの人気バーバーから「購入したい」と殺到したからだ。
「その後、時間差で日本の理美容師の方からもオーダーが入り、多いときは年間数千着出るようになりました。ただやみくもにお客さんを増やすつもりはなくて、今はこちらも会員制。本当にうちのスタイルに共感しているもらえる人だけに使ってほしくて。あと忙しすぎると、のん気にやれないし」
気がつけばいつもの居場所が世界の真ん中になっていた。窓からの海はこの日もなだらかだった。


店内から見えるのは、瀬戸内国際芸術祭でも知られる直島などの島々。コレを借景しながらシェービングなんて、“チルい”にもほどがある。

元々ビルオーナーの趣味部屋だった9坪ほどのスペースをバーバーに。イスを一脚だけ置いた贅沢な空間だ。ケープはもちろんオリジナル。