新興プロレス団体GLEATは、毎年10月9日(新日本プロレスとUWFインターナショナルの全面対抗戦が東京ドームで行われた日だ)に、後楽園ホールで“対抗戦興行”を開催している。
GLEATの選手たちと“外敵・強敵”、つまり他団体やフリー、海外の強豪が対戦するという大会。今年の対戦カードの中で、とりわけ異色だったのがT-Hawkと青木真也のシングルマッチだ。
青木はMMAの世界でも屈指の寝技師として知られ、近年はプロレスでも活躍。昨年のプロレス大賞では技能賞を受賞している。
一方のT-Hawkはドラゴンゲートでデビューし、STRONGHEARTSではCIMAやエル・リンダマンらとともに海外でも活動。旗揚げに参加したGLEATでもチャンピオンになっている。
スピーディーかつ大技を自在に使いこなすファイトスタイルは、ハードヒットなチョップも含め現代プロレスの最前線。対戦した選手によると試合運び、主導権を握る駆け引きにも長けているという。
格闘技ベースの青木と“THE 現代プロレス”のT-Hawkは水と油に思えた。しかしT-Hawkはブラジリアン柔術を学んでおり、リスペクトをもって青木との対戦を望んだという。
青木もT-Hawkの実力を認めており、試合を楽しみにしていたようだ。ただスタイルが違うだけに、互いの思惑がズレると噛み合わない可能性もあった。気取ったりスカしたりは禁物という試合だ。
リング上、青木とT-Hawkは期待以上の真っ向勝負を展開した。序盤はグラウンドの展開。T-Hawkが三角絞めを狙えば、青木はワキ固めから両腕を取って抑え込む。
関節技の名手である青木だが、プロレスでは3カウントを取ることにフォーカスした闘いを見せる。フルネルソンから相手を抑え込むエイオキクラッチがその代表例だ。ロープブレイクがあるプロレスでは、ギブアップを奪うより“肩を3つつける”ほうが効率的ということだろう。
ルールの中で勝利への最適解を追求するという意味では、MMAでもプロレスでも“青木スタイル”は変わらないと言える。
グラウンドで青木優位となったところで、T-Hawkが得意のチョップから場外戦へ。そこからは徹底した打撃戦だ。青木もエルボーを返す。気がつけば必死の形相で打ち合っている。青木といえばクールな表情のまま相手をテクニックで翻弄するようなイメージがあったが、ここではむしろ気持ちの勝負を見せた。
ついにはT-Hawkが青木をダウンさせる。が、T-Hawkが感情を爆発させ咆哮した瞬間に青木が背後から組みついてエイオキクラッチで3カウント。一瞬の逆転劇だった。
「勝っただけ」とは試合後の青木の言葉。しかしその表情は満足気で「凄く楽しかった」とも。「2人にしか作れない試合」、「彼に感謝だね」と、言葉数は少ないが充実した試合だったことを感じさせた。
T-Hawkも、青木を「尊敬してるけどプロレスラーである以上は商売敵」としつつ「凄えなと思っちゃった」、「試合中、ナチュラルに笑ってしまった。楽しくて」と振り返っている。
派手な大技、複雑な攻防があったわけではない。因縁やストーリーもない。なのに、この試合はとてつもなく見応えがあるものになった。グラウンド、打撃戦はこれ以上ないほどシンプルで、だからこそ両者の技術も気迫もむき出しになった。
「徹底的に勝負に拘ったが故に出た充実感と達成感」
青木は試合後、noteにそう記した。“いい試合をしてやろう”という欲すら削ぎ取られた、邪念のない闘いとでも言えばいいのか。それにのめり込む青木とT-Hawkから目が離せなかった。
加えて、両者が相手のフィールドに勇気をもって踏み込んだことも見逃せない。T-Hawkは青木と寝技で渡り合った。青木はT-Hawkの(それだけでフィニッシュ力があると認める)チョップを避けることなく受けまくった。お互いのキャリア、そこで培ったプロレス観をかけての意地の張り合いであり、プライドの売り買いがそこにあった。T-Hawkは言う。
「自分のスタイルに迷うこともあったけど、俺は俺でいいんだと思えた」
今のプロレス界においては異質と言ってもいい、しかしプロレスならではの激戦だった。年間ベストバウトの有力候補だと、少なくとも筆者は主張しておく。
取材・文●橋本宗洋
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