回り道をしてたどり着いた、子どものころの「好き」
――そんな会社員生活を経て、エスムラルダさんはドラァグクイーンのほかに、ライターや脚本家としても幅広く活動されるようになりました。そのきっかけはなんだったのでしょうか?
会社員時代に自分のホームページを立ち上げたのが一つの転機になりました。当時、個人でホームページ立ち上げることが流行っていて、「私も自分の想いを文章にして発信したい」という気持ちがどんどん強くなっていったんです。
そんな中、たまたま“オネエ言葉”で書かれた面白いホームページをいくつか見て触発され、私も同じスタイルで日々の出来事や想いを発信するようになりました。すると、私のサイトを見た『週刊女性』など雑誌の編集者の方からコラム執筆のお話をいただくようになって。

結局、会社員・ドラァグクイーン・コラム執筆の副業という“三足のわらじ”を履いた状態になっていきました。ちょうど会社の激務も重なり始めたことから、すべての仕事をこなすのは無理だと感じ、退職を決断したんです。と言っても、実際に退職するまで、占い師13人に相談するくらい迷いましたが(笑)。
――13人も!会社を退職することについて相当悩まれたんですね。
もともとは慎重というか保守的というか、なかなか自分の殻が破れないところがあるんです。こんな格好して何言ってんだという感じですが(笑)。セクシュアリティも、20歳になってようやく自分で受け入れてオープンにできたし、仕事に関しても「辞めたい」と思いつつ、実際に退職するまで8年半かかりました。
でも迷った末に覚悟を決めると、いつも、それまでのウダウダはなんだったんだと思うくらい、パーッと新たな道が開けるんです。
フリーランスになってからは、社史の仕事で知り合ったデザイナーさんから編集者を紹介され、ブックライターの案件をいただくようになり、元の職場からもしばしば、社史編集の仕事をいただきました。
フリーになって大きく変わったのが、仕事への取り組み方。一つひとつの仕事がお金になると思うと、ありがたくて。「(仕事を)やらされている」などと感じていた過去の自分は本当に甘えていたなと思いました(笑)。
また、退職を決めたころから脚本を学ぶスクールに通い、友人からの依頼で漫画原作をちょこちょこ書き始め、2012年にテレビ朝日の新人シナリオ大賞で優秀賞をいただいてからは、映像や舞台の脚本を書く機会が増えました。
ドラァグクイーンとしては、ずっとリップシンク(口パク)のショーばかりやっていたのですが、2015年には東宝主催の『レ・ミゼラブルのど自慢大会』のファイナリストとして帝国劇場で歌わせていただき、2018年には、脚本の仕事で知り合った作詞家の及川眠子さん、そして作曲家の中崎英也さんのプロデュースでドラァグクイーン・ディーヴァユニット『八方不美人』を結成し、歌うことが多くなりました。
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こうして20年ほどをふり返ってみると、子どものころに好きだった物語・歌・お芝居すべてが仕事になっているのは感慨深いですね。勇気を出して新宿2丁目を訪れたとき、ドラァグクイーンをやり始めたとき、ホームページで文章を発信しようと思ったとき、退職を決意したとき……。一つひとつの決断や人との出会いが、少しずつ人生を変えてくれたんだなと思います。
「ダメな自分」も「迷った時間」も、素直に受け止めて
――自分の「仮面」に対するモヤモヤや違和感とは、どう付き合っていけばいいのでしょうか?
社会人の仮面、上司の仮面、部下の仮面、親の仮面、子どもの仮面……。人はみな、たいてい何かしらの仮面をかぶっています。それは、社会で生きていくうえで必要ですが、同時に「今、自分は仮面をかぶっている」「この仮面はかぶり続けなくてもいい」と認識することも大事だと思います。そうすれば、違和感を覚えたときや息苦しさを感じたときには、仮面を外すこともできるので。
あと、日々の生活や仕事の中でモヤモヤや違和感を抱いたときは、まず自分でその気持ちを認めてあげることが大事だと思います。私の場合、セクシュアリティも、自分の容姿や性格に対するコンプレックスも、自分で受け入れられない間、他人から隠そうとしている間はずっとしんどさがありました。
自分の中にある一見ネガティブな要素や、「妬み」「焦り」「弱さ」「ずるさ」といった気持ちと向き合うのは、最初はしんどい作業ですが、それらを認めると、完璧ではない自分を受け入れられるようになるし、はるかに楽に生きられるようになります。
なお、私は嫌な気持ちになったりしたときには、絶対に人に見られないノートに生々しい感情をすべて書き出します。頭の中に留めておくとネガティブな感情がどんどん膨らんでしまうので、とにかく文字にして外に出す。これもある意味、「モヤモヤした気持ちを一旦認めてあげる」作業なのかもしれません。
――最後に、スタジオパーソルの読者である「はたらく」モヤモヤを抱える若者へ、「はたらく」をもっと自分らしく、楽しくするために、何かアドバイスをいただけますか?
もし「やりたいことがあるのに、何もやっていない」という人は、まずは今、無理なくできることから始めるといいかもしれません。いきなり大きなことを始めるのは、時間もお金もエネルギーも必要なので。
また、「やりたいことを見つけたい」という人は、子どものころに好きだったことを思い出してみたり、今の生活の中で少しでも楽しいと思えることを突き詰めてみたりするといいと思います。やりたいことを絶対に見つけなければいけないわけではないけど、やりたいこと、夢中になれることがあると、人生が楽しくなるし、それがもしかしたら自分らしいはたらき方につながるかもしれませんよね。
つらい時間もいつかは必ず過去になります。私も時間はかかりましたが、今では完璧じゃない自分も、回り道ばかりしてきた人生も、全部ひっくるめて愛おしく思えるようになりました。あなたにもきっと、そんな日が来るはずです。

(「スタジオパーソル」編集部/文:間宮まさかず 編集:いしかわゆき、おのまり 写真:神田佳恵)

