
アメリカのボストン大学(Boston University)などで行われた研究によって、夢が私たちの精神状態に与える影響が起床直後よりも「数日後に強く現れる」場合があることが示されました。
研究では参加者がどんな夢を見てどのような感情を抱いたのかを綿密に追跡されており、その結果、夢の中で神や霊など超常的なものを体験した場合、その精神的影響は約3~4日後に最も強まる傾向が見られたのです。
つまり、数日前の夢が、知らないうちに「今日のあなたの気分」や「信じる心」に影響しているかもしれないのです。
いったいなぜスピリチュアルな夢の影響力は遅れて現れるのでしょうか?
研究内容の詳細は2025年7月28日に『Frontiers in Psychology』にて発表されました。
目次
- 夢の影響が最も大きいのは「起きた直後」か「数日後」か?
- 夢の影響は内容によって3~4日後に遅れて最大になる
- なぜスピリチュアルな夢の影響は「数日遅れ」になるのか?
夢の影響が最も大きいのは「起きた直後」か「数日後」か?

「夢なんて、所詮は朝起きたら忘れてしまうもの」――そんなふうに思っていませんか?
実はそれ、大きな誤解かもしれません。
誰だって悪夢を見た翌朝には何だか気持ちが沈んだり、逆に素敵な夢を見た後には一日中幸せな気分になったりした経験があるはずです。
つまり、夢が私たちの日常生活に何らかの関連を与えていることは、多くの人にとって意外と自然に受け入れられる現象なのです。
ところが今回取り上げるのは、その夢の「関連」が一晩だけで終わらず、何日も後にジワジワと現れる可能性がある、という驚きの研究です。
たとえば、神様や霊的な存在が登場する夢を見たとします。
神様が夢に出てくると、それはただの夢に終わらず、特別な意味やメッセージを持つと昔から信じられてきました。
人間は古代から夢を「神のお告げ」や「運命の予兆」として解釈してきた歴史があります。
「夢占い」なんて言葉もありますね。
つまり、夢と信仰やスピリチュアルな感覚が密接に結びついているという考え方は、決して新しいものではありません。
ただ、このような伝統的な考え方に科学の光を当て、夢とスピリチュアリティの関連を本格的に調べた研究はこれまでほとんどありませんでした。
心理学という分野では夢を科学的に扱うこと自体が難しいテーマであり、ましてや「信仰心」といった個人的で主観的なものと関連付けることは、一段とハードルが高かったのです。
言い換えるなら、科学者にとってこのテーマは「謎だらけのジャングルを懐中電灯一本で探検する」ようなものだったでしょう。
それでも研究者たちは、勇気を出してこの謎に踏み込みました。
研究のポイントは単純です。
夢の中で神様や霊などの「超常的存在」と遭遇したり、強い感情を経験したりした場合、その関連は翌日だけにとどまるのか、それとも数日を経て私たちの気分や信仰心に何らかの関連を示すのか、ということです。
私たちは普段、「夢なんて次の日には忘れてしまう」と考えがちですが、もし数日前の夢が今日のあなたの気分や考え方をこっそり左右しているとしたら、ちょっと不思議な感じがしませんか?
科学者たちはその疑問を明確な形で問いかけました。
「夢での体験は私たちの日常の信仰心や精神的感覚と実際に関連しているのだろうか?」
そして、もっと具体的に、「もし夢の関連が本当にあるなら、その関連は夢を見た直後に強く現れるのか? それとも、じわじわと数日後に強まるのか?」
この問いに対して研究者たちは本格的に検証しようとしたのです。
つまりこの研究が明らかにしたいのは、夢の体験が私たちの精神状態に「時間差」で関連する可能性があるという点です。
仮にこの「夢のタイムラグ効果」が本当なら、夢の持つ力や役割を根本から考え直すことになるかもしれません。
私たちが何気なく見ている夢は、実は数日後の私たちに影響を与える「時限タイマーのような」ものかもしれないのです。
では、この大胆な仮説を検証した研究チームは、どんな方法でその謎に迫ったのでしょうか?
夢の影響は内容によって3~4日後に遅れて最大になる

では、夢が私たちの日常生活や気分にどのように関連しているかを、科学者たちは一体どうやって調べたのでしょうか?
実は今回の研究では、「夢の内容」と「起きた後の心の状態」を毎日丁寧に記録することで、この関連を詳しく探ろうとしました。
まず、研究チームが集めたのは124名の健康な成人です。
実験に参加した人たちは、自分の家でふだん通りの生活を送りながら、2週間にわたってある特別な日誌をつけてもらいました。
毎晩寝る前にその日の気分や、どんな人と会ったか、どんな出来事があったかなどをアンケートに書きます。
さらに毎朝、目が覚めるとすぐに、その夜に見た夢の内容や、その朝の気分について記録してもらったのです。
アンケートの中には、「神様への親近感」や「神様を厳しい存在(権威的)と感じるか」といった項目も含まれていました。
では、集められた夢の内容は具体的にどのように評価されたのでしょうか?
まず研究者たちは、夢の特徴を3つに分けて分析しました。
1つ目は、「夢の主体性(dreamer agency)」というものです。
これは簡単に言うと、夢の中で自分がどのくらい自由に行動できているか、という感覚のことです。
夢を見ているときに、自分の思い通りに夢の中の世界を動き回れたり、逆に逃げたいのに体が動かなかったりする経験があるでしょう。
この自由に動ける感覚のことを研究では「夢の主体性」と呼んでいます。
2つ目は、「夢の感情トーン」です。
夢の内容が楽しくてハッピーだったか、それとも怖かったり悲しかったりしてネガティブだったかを評価しました。
そして3つ目が、最も気になる「超常的な内容かどうか」です。
これは例えば、夢に神様や霊などの超自然的な存在が出てきたかどうかをチェックする項目であり、研究者たちはこの影響に強く興味を寄せていました。
人類に太古の昔からインスピレーションを与えてきた神や霊の夢の場合、普通の夢のように起きた直後に影響力が最大値にならない可能性があるからです。
ここまで準備ができたら、いよいよ「夢の内容が翌日のスピリチュアルな感覚と関連しているか?」という本格的な分析がスタートです。
研究では基準として「神様への親近感」という項目が使用されています。
すると、まずは分かりやすい結果が見えてきました。
神様や霊など、いわゆる「超常的な存在」が出てくる夢の影響は翌日だけでなく数日後に遅れて現れることが示されたのです
具体的には、「夢の中で自分がどのくらい自由に行動できたか」や、「夢に超自然的な存在が登場したかどうか」といった指標が、翌朝に感じる「神様への親近感」よりも約3~4日後に感じる「神様への親近感」の値により大きな影響を与えていることがわかりました。
つまり、夢の中での主体性の低下や超自然的な影響が、起きた直後はそれほど強くなくても、数日後の心の状態を大きく揺さぶっていたのです。
まるで強烈な夢の体験が、一時停止され、数日後に解放されるかのようです。
この「数日後に関連が強まる」現象を裏づけるために、研究チームはここからさらに一歩踏み込んだ検証を行いました。
それが「時系列人工ニューラルネットワーク(TSANN)」というモデルを使ったものです。
難しそうな名前ですが、要するに“時間の流れを学ぶAI”です。
「人間の夢を解析するのにAIを使うことに意味はないのでは?」と思うかもしれません。
しかし人間の脳もAIも情報処理という似た役目を担っています。
そこで研究チームはまずAIに、参加者が報告した夢と精神状態のデータをまるごと学習させ、「神様への親近感」がどう変化していくかを、AIが過去の夢の内容から予測できるか試しました。
この研究ではAIは夢を見ていませんが、人間の夢の記録を学習することで、ある日の精神状態が何日前の夢の影響を最も良く受けているかを調べることができます。
その結果、3〜4日前(T-3/T-4)の入力の重要度が高いことが示されました。
つまり、モデルの重みづけの面でも、「昨日」より「数日前」の夢の方が予測に有用だったのです。
これは統計モデル(LME)の示唆と整合しており、AIが“遅れて響くパターン”を支持したと言えます。
敢えて言えば、「AIの内部でも、直近の夢より数日前の夢のほうが今の精神状態に関わりやすい」――そんな計算上の傾向が浮かび上がったのです。
ではなぜ、夢の関連が“数日遅れ”で表れるのでしょうか?

