お笑いの世界において、ブレイクは奇跡に近い。再ブレイクとなればなおさらだ。そこから生き残るのは、もはや例外中の例外。その例外のひとりが、永野である。永野は、これまでの芸人と何が違うのか。私たちは彼のどこにおもしろさを感じているのか。
永野がメインのバラエティー番組
テレビ朝日の深夜バラエティ枠『バラバラマンスリー』は、月替りで異なる個性の番組を放送する実験的な枠だ。10月期の新ラインナップは、火曜にTravis Japanの宮近海斗やSAY MY NAMEの本田仁美らが“絶景×ダンス”をテーマにした『絶景ダンス』、水曜にはダウ90000の蓮見翔とラランド・ニシダが年下の才能と出会うトークバラエティ『蓮見ニシダのヤッカム!』。
いずれもZ世代や人気の若手の感性を掘り下げる番組が並ぶ中、木曜だけは空気が違う。登場するのは、芸歴30年の永野。番組名は『◯◯と永野がいたら、もうコント。』(テレビ朝日)。人気俳優とのコントを軸に、永野自身が脚本も担当している。
若手の“発掘”と“共創”がテーマになりつつある深夜テレビの流れの中で、あえて永野という異物を主役に据えたことは象徴的だ。
2015年の初ブレイクから約10年、再ブレイクを経て、2025年の今――。永野はもはや「再評価されている芸人」ではなく、“永野でしか作れない番組”を持つ存在になっている。最近も深夜のレギュラー番組の時間帯が繰り上がったことなどをふまえると、すでに再ブレイク期を抜け、次のフェーズに移行していると言えるだろう。
永野はしばしば、芸人たちの立ち回りに潜む「甘さ」や「ぬるさ」を、批評的な眼差しでえぐり出す。最初はただの言いがかりのように聞こえるが、トーンが徐々に熱を帯び、気づけば相手のウィークポイントを的確に突いている。
ただ、その熱量はとどまることなく、批判は関係ないところに飛び火することも多い。その結果、終わってみると「なんか無茶苦茶言ってたな」と思わされる――。そんな再ブレイク後の永野の基本スタイルがもっとも際立ったのが、『全力!脱力タイムズ』(フジテレビ系)だった。
温厚なずん・飯尾和樹にも毒舌を吐く
10月24日の放送では、飯尾和樹に対し「飯尾さんの弟子になりたくて」と持ち上げつつ、最終的に「飯尾さんのギャグには興味ないですけど、人柄が好きなんで。飯尾さんのギャグでは笑ったことないんですけど」と言い放った。
派手な芸よりも人柄で愛されるタイプの芸人に対する皮肉や批評のようでもあり、同時に、ただの無茶苦茶な暴言にも聞こえる。そのバランスが永野らしい。
芸人としての永野は、決して正しいことを言う人ではない。全体としては無茶苦茶なことを言っている。だからこそ、ときどき混ざる「正しいことっぽい何か」が、妙に際立つ。その絶妙で危ういバランスを、永野は決して見誤らない。だから永野はおもしろい。
さらに、永野の再ブレイクを語るうえで、『マルコポロリ!』(関西テレビ)の存在は欠かせない。芸人をゲストに招き、いわゆる「裏側トーク」を展開する番組だが、MCの東野幸治を筆頭に、いじりの角度がやや意地悪い。そんな番組と永野の相性が悪いはずがない。
10月19日の永野の出演の仕方は、いつもと少し違っていた。ひな壇にはサツマカワRPG、ママタルト、ザ・ギースなど、過去の出演時にうまく立ち回れず苦い思いを味わった芸人たちがずらり。この日は彼らのリベンジ回だったが、永野は別室で収録の様子をモニタリングし、最後にダメ出しをしていくという流れだった。
しかし、永野の動きは番組の設定した流れに収まらない。舌鋒はゲスト芸人だけではなく、レギュラー陣にも向く。月亭八光のバー経営の話を「どう聞いていいかわからない」と批判したり、トークが行き詰まった末に開始されたギャグ対決で意気揚々と前に出てきた月亭方正を刺したりといった具合だ。
永野のこうした立ち回りは、他の番組でもよく見られる。ほかの芸人が誰も踏み込まない忖度ゾーンにあえて切り込む。群れずに、個として、あらゆる方向に牙を剥く。役割を演じる出演者がつくった空気を乱し、形式的なテレビの笑いに呼吸を取り戻す。視聴者はそこに、生きたテレビを感じるだろう。だから永野はおもしろい。

